最後の晩餐探しの旅

 美味いものが嫌いな人間はいないと思う。すくなくとも自分は好きだ。食事は生活の基本だが、それは最低限の栄養補給だけに止まるものではない。もっと美味くて感動的な食との出会いを求めて生きている。それは食材の潜在能力によるものでも良いし、それを供する店側の特異性でも構わない。

 僕らの美味いもの探しの旅は終わらない。酒場の仲間が集まると、どこが美味いとか何がキテるとかの話になる。みんなの共通の好物で言えばラーメンだ。ラーメンの話が長引くと、どうしても食べたくなる。できれば飲んだ後に一軒行きたい。このご時世なので、なかなかやっている店はないが。

 いろんな好みがあるし、流行りもあるが、結局みんな好きなのはシンプルなものだ。なんてことない中華屋の、気合いの入ってなさそうなラーメンが意外と美味かったりする。僕の記憶の中にも、そんな雑なラーメンがある。大学近くの汚ない中華屋の最安値メニューのラーメンが実に美味かった。

 あのラーメンの味は、実のところ全然覚えていない。ただ、とても安かった。あの値段に対しての対価としては、どんな味でも許されそうな気がする。たぶん、学生が食べる物として計算された「濃さ」があったのだ。それさえあれば満足するというポイントを、長年の経験で知っていたのだろう。

 シンプルかつ美味いという意味で、この世のラーメンでもっとも近いのは喜多方ラーメンだろう。または佐野ラーメンもそれに準じるだろうか。定義などは分からないが、どちらも汁の濃さよりも手打ち麺に重きを置いているように感じる。縮れた麺が拾うあっさりスープの旨味がたまらないのだ。

 僕の住む埼玉県東南部エリアには、残念ながら気の利いた喜多方ラーメンの専門店はない。飲んだ帰りにも、この欲求を満たすちょうどいい店は見当たらない。どの道、夜は時短でやっちゃいないのだ。結果的に夜食ラーメンで無駄太りせずに済んでいる。それは、でも果たして幸せなことなのか?

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ハマスタで野球観戦前に行った山手の奇珍。近所に欲しいタイプの町中華の老舗。