隣の客はよく食う

 先日入ったラーメン屋で、隣の客が個性的な注文をしていた。トッピングのネギを別皿に盛って出してもらっていた。僕はなるべく店員を手間取らせたくないと思う方なので、個性的な注文はあまりしない方だ。客なんだから頼んでみるべきだなどと言う人もいるが、それをしないのが僕の個性だ。

 僕の見たところでは、その店の人は別皿で盛ることを特に面倒そうにはしていなかった。そして、ラーメンを渡すときにも「いつものです」と言っていたので、その店の常連であることは間違いなさそうである。麺固めとか味濃いめなどの細かい注文が、店側にすでにインプットされているらしい。

 そのとき、僕もネギラーメンを頼んでいたので、ネギを別皿にする意味は確認したかった。もちろん本人に直接聞けるようなコミュニケーションの天才ではない。そこは洞察力の鬼となって、隣をチラ見して情報を盗み取るのだ。しかしながら、仕切りのアクリル板がジャマで所作が見えなかった。

 僕は、どノーマルのネギラーメンを食べながら「ネギを別皿に盛る意義とは」と自問していた。そこでひとつ得られた解としては、ネギを余すことなく食べ切るためには汁を全飲みしなければいけない。しかし、別皿ならば汁を飲み切らずともネギを完食することは可能だ。それが理由なら納得だ。

 そう思って隣の客が丼を下げるときにチラ見したら、汁を全飲みしていた。僕の想像はハズれた。でも、僕なりの理由が仮説として立てられたので気持ちは晴れてしまった。おそらく、隣の彼なりの理由があるのだろう。まるで無意味な行為ではないんじゃないかと思えただけで救われた気がする。

 ちなみに僕は店で食べ終わったら「ごちそうさま」と言って店を出る。でも、小学校の頃の教員で変なことを言う人間がいた。店で「ごちそうさま」を言う必要はないと宣言していた。客なんだから、店員にへりくだる必要はないと言うのだ。変なオッサンだった。嫌なことを思い出してしまった。

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路地裏に名店あり。初見の店ではオドオドしてしまう。怖い店は嫌いだよ。