ときどきヌードルセラピー

 むかし、高校の通学路にあったラーメン屋にたまに行っていた。ほぼ毎日同級生と一緒に帰っていたのだが、僕ひとりで帰るときは高い確率で寄っていたと思う。とは言え、それはほんの数回だ。家に帰っても晩飯は食べるのだが、家に帰るまでの道のりで消費するエネルギーを補給するのである。

 その店に同級生と行ったことはない。その頃は「自分だけの居場所」がほしかったのだろう。現在の「行きつけの酒場」のような存在だ。行きつけと言えるほど何度も行ってないけれど、高校生の僕が周りの連中を煩わしく感じると行く避難所のようなものなので、割と大事な場所でもあったのだ。

 その店には高校を卒業してからは一度も行っていない。今でもその店の前を通ることはあるのだが、すでにラーメン屋はなくなっている。あのラーメン屋が美味しかったかと聞かれると、味のことは記憶にない。おそらく味噌ラーメンを頼んでいたように思う。味噌ラーメンがまずい店はないから。

 僕にとっては居場所としての比重が高かったので、味で嫌いになりたくなかったのだ。学校と家の途中で少しだけ現実から離れられる場所、そんな位置づけなのだろう。高校の鬱陶しい気分を家に持って帰らないための休憩所。本当は喫茶店がよかったのだけれど、通学路に喫茶店がなかったのだ。

 高校時代はよほど孤立しようとしない限り、常に誰かと行動を共にすることになってしまう。通学路は退屈なので、誰かいた方が気が紛れるという事情もある。いつも同じような日々は予定調和でつまらない。そんな鬱憤が溜まると学校に用事が残っているふりをして、待っている仲間を先に帰す。

 その時の感覚が蘇ってきた。仕事が終わらなくて終電を逃し、会社に泊まっちゃえと覚悟を決めた時の感覚だ。みんな帰った会社で仕事をやっつけて、周辺の居酒屋で晩飯がわりに飲み食いする感じ。急に自由な気分になってワクワクする。高校生の僕にはラーメン屋という選択肢しかなかったが。

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最近お気に入りの家系ラーメン屋でネギラーメン。サービスライス小を追加。