酔いどれスワンソング

 先週末は久しぶりにカラオケスナックに行った。大人になったら何軒かの馴染みのスナックを持ちたいと思っていたのだが、いまだにそこには至ってない。その日は酒場の知り合いに誘われるがままに連れられたに過ぎない。歌う気はなかったが、すすめられたら絶対に歌うルールに従って歌った。

 いや、実際には歌えなくなった自分の現状を思い知った。入れた曲は「肉体関係」というライムスターとクレイジーケンバンドのコラボ曲だ。歌うというよりラップなのだが、とにかく早く言葉を発さなければいけないので忙しい。そんな曲に程よく酔った状態で挑むのは無謀なのだと知らされた。

 とにかくリズムに乗れないので、歌い始めるのが困難なのだ。これは酔いの効果だろう。そして歌詞を追う目が全然効かない。だいたいの歌詞は覚えているのだが、頭がクリアじゃない時は記憶力への自信も揺らぐ。目の前に歌詞が出ていれば、自然に追ってしまう。その目が字を追えないという。

 途中で止めてもらおうかと思ったのだが、スナックで歌うのは有料だったはずだ。知らんけど。とにかく周りの人間が頑張れというので、ブツブツと呟くようなダメカラオケを歌い切った。こういう記憶は覚えているんだよなと思いつつ、その後も苦い酒を飲み続けた。何を飲んだかは覚えてない。

 そして、やはりあのカラオケの残念な記憶は拭いがたく残っている。リベンジしたいと思う反面、馴染みじゃないスナックへの再訪は同じメンツが好ましい。あの夜のメンツは奇跡的というか、普段はあまり一緒にならない人たちだった。たぶんリベンジの機会は訪れないのだろう。でも練習しよ。

 僕はクルマの運転中に歌う。フリーになりたての頃は高速道路で移動することが多かったので、ハイウェイは僕のステージだった。その鍛錬により、それまでのレンジの狭い声よりは多少声域が広まった気がする。その後、まったく歌ってないので劣化は仕方ない。いまは現状を受け入れるだけだ。

本当は古い歌謡曲フォークソングを歌いたいのだが、空気を読んでしまう。