世界の果てから響き渡る

 僕の好きな忌野清志郎の曲で「胸が張り裂けそう」という、彼のキャリアの中では残念ながら後期に当たる名曲がある。アッパーな曲なんだけれど、この曲の歌詞にある〈こんな世界でお前は歌っている〉という部分がとても沁みる。この一節から想像の翼を羽ばたかせて、勝手に連想してみよう。

 なぜ僕がこのラインに引っかかってしまうのか。もっといえば、この歌詞を思い起こすたびに涙ぐんでしまうのか。ある感情の高まりを抑えられないのだ。おそらく感動しているのだが、何に感動しているのかを探って行きたい。曲調は極めて明るいので、歌詞から何かを連想しているのだと思う。

 この曲を聴いていると、僕は「こんな世界で歌っているお前」を思い浮かべるのだ。どんな世界かというと、もう滅びる寸前みたいなボロボロで灰色の廃墟の世界だ。こんな世界にしてしまったのは僕ら大人で、歌っているお前は若くて、まだ希望を捨てずに歌を歌い続けているという世界なのだ。

 話は飛ぶが、僕はデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』という映画が好きだ。この映画では泣かないが、劇中のモーガン・フリーマン扮するサマセット刑事が「こんな酷い世界で子供を生むなら精一杯甘やかして育ててやれ」的なことを言う。僕の中のこんな世界とは、そんな世界でもある。

 ちなみに泣くか泣かないかは「良し悪し」のバロメータではないが、感動に関して僕はどうしても泣いてしまう。泣かない感動もあるとは思うのだが、そういう感動でも涙は出てしまう。優しさを感じた瞬間に泣く。キヨシローの歌はいつだって強くて優しい。だから、僕はいつでも感動している。

 先日、朝のワイドショーで若い女優が歌っていた。なんてことない歌だと思ったのだが、その自然で力の入ってない歌を聴いて「こんな世界でお前は歌っている」と感じてしまった。だいたい僕は若い女の子が歌っていると感動するのだ。こんな風に感じて目を潤ませたのはこれが初めてではない。

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「胸が張り裂けそう」収録の『KING』。1曲めの「Baby何もかも」も名曲。