タイムトラベラーの条件

 酒を飲んでいる場でした約束なんて、その場限りのものだ。僕は律儀に後日その約束を守ったりしていたのだが、相手が忘れていることが多いので、次第に僕もルーズになっていた。だから、いわゆる老いるショック(©︎みうらじゅん)で酒場記憶が飛んでも、もう何も気にしないのが現状である。

 でも、ふた回りくらい下の年代の人と酒場で交流していると、そうルーズにもしていられないような気がする。根っこの僕は律儀なので、元の状態に戻せば良いだけのことだ。そう簡単に考えていたのだが、古いクルマをいくら洗車しても新車には戻らないのと同様に、人間の劣化も戻らないのだ。

 とにかく忘れる部分に関しては、なるべく気をつけることしかできない。いろんな記憶のヒモ付けをして、思い出せるルート確保をしておくなどの準備も試してはいる。そうやって思い出したことのひとつに、酒場の若い女性従業員に昭和歌謡などのプレイリストを送るというミッションがあった。

 これは僕の密かな趣味でもあるので、常に安易に引き受ける。ただ、簡単に引き受けてしまうのでサラッと忘れてしまう。その時の会話の雰囲気をイタコさせると、たぶん僕は「カラオケで若い子が歌ったら『やるな』と思われるような曲」というテーマをぶち上げたような薄らとした記憶がある。

 いや、その場で盛り上がってカラオケ行こうなんて話していたから、こんな発想になるのかもしれない。まあ、それはどちらでも構わないのだ。プレイリストを作るというミッションは存在するのだから、その楽しい時間を満喫するだけのこと。曖昧なテーマを抱えて昭和の歌謡界にタイムリープ

 僕のクセで、つい時系列にクロニクル化してしまう。古い順に並べると、序盤はどうしても古臭く感じてしまう。でも、年代をランダムにすると音圧の差が気持ち悪い時があるのだ。それを避けるために、徐々に現代に近づくように並べる。まずは70年代の和田アキ子に出会うところから始めた。

ずっと変わってなさそうな街の情景を見ると、いまの時間軸がブレそうになる。