キレイさっぱり消失消失

 酒場で人と話していて、ちょっと興味を惹かれた話でも、次の日には完全に忘れ去っていることがある。いや、ほとんど覚えていないと言っても過言ではない。あとから「前に言ったじゃん」と言われれば、なんとなく聞いたような気もするが、確信はない。その程度の話と割り切れば良いのだが。

 そんな記憶の消失現象を繰り返し、いつの間にか初めて聞いた話も「前に聞いたような」と思うようになっていた。そのメカニズムは単純で、まず一度聞いて、それを頭の中で反芻した時点で、最初に聞いた話が過去のものになっているのだ。だから、印象に残る話ほど初めて聞く気がしないのだ。

 この感覚は誤解を生むので、ちゃんと時系列を頭の中で整理したいと思う。誰かの話が「つい先日」の話であれば、それは間違いなく初出の話なのだ。いつの話なのかを確認しておけば混乱は起こらない。今後はそうしよう。初出か既出かを判断できないと、不自然なリアクションになってしまう。

 先日、酒場の店主に不案内なエリアの飲み屋でオススメがないかを聞いてみた。そのエリアに詳しいから調べてみると言ってくれたので、その報告を密かに待っていた。でも、そのことを忘れていたので「あれ、どうなったっけ」と聞くと「とっくに伝えた」と言われた。まったく心当たりがない。

 すると、その場にいた他の人間からも「私もオススメを教えた」と言われ、さらに他の人からも「それ隣で聞いていた」と後押しされた。改めてその店を聞いても明確に記憶が呼び戻されることはなかったが、それらの店名には既視感があった。これには僕の非常にダークな側面が反映されている。

 僕も事前にグルメ検索サイトで調べてはいたのだ。彼らのオススメが僕の事前情報を超えてこなかったので、脳が記憶することを拒否したのではないか。あまり認めたくはないが、そんな僕の嫌な思考の跡が見てとれる。もっとシンプルに思考したいと思う反面、この程度の複雑さは持っていたい。

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いつ撮った写真かは覚えていないが、AKIRAの東京崩壊のシーンを思い出す。