わたしを忘れないで

 酒場での人との交流を楽しみにして飲みに通っているのに、酔うと記憶力が消失する。覚えてないで済ますことは無責任だなと昔から思っていたのだが、そんな政治家の言い訳のような言葉を吐く人間になってしまった。そして、本当に記憶にない。信じられないくらい、綺麗さっぱり記憶にない。

 記憶にないので、何度も同じ話をすることになる。その都度「それ、前聞いたよ」とたしなめられるのだが、僕は酔ってなくても同じ話を何度もするタイプだ。その時に思いついたことを言ってるので、同じ話でも流れで聞こえ方が違うと思うのだ。食事で言うところのマリアージュというヤツだ。

 会話というのは陣取りゲームというか、誰が主導権を握るかを競い合うような場面がたまにある。結局すべての話の主体が同じ人間になって、その場の会話を支配されてしまう。そのんな弱肉強食トークシーンでは、前に聞いた話をリピートしにくい。即座に却下されて次の話題に変わってしまう。

 誰かひとりが会話を支配する場合だけでなく、それぞれに話したい話題もあるので、コチラの意図が伝わる前に話はコロコロ変わってゆく。みんな自分の話しかしない。僕もそうだ。フラットな状態では「いろんな人の話を聞きたい」と思っているはずなのに、酒場では我先にと口を開いてしまう。

 その割に同じ話のリピートが多いので、サラッと流されてしまう。最後まで聞いてほしいという思いが拭えないので、流された話を何度もトライする。そんな悪循環から、僕は同じ話ばかりする人間になってそうな気がする。人ひとりの話のストックなんて限られているので、仕方ないことである。

 酒場での反省を活かして、たまには人の話を聞こうと心を入れ替えて行く時がある。そういう日に限って店がヒマで、店主から「なんか面白い話ないですか」などと聞かれる。その場合は同じ話をするわけにはいかない。最近あったことで考えるのだが、だいたい何でもない世間話になってしまう。

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街で見かけた「これ何?」な写真を取ってあるが、会話には混ぜ込みにくい。