傍観者たちの夏

 僕が月に一度出向く仕事場が世田谷の方にあるので、その際は出先で昼飯を食べてから職場に行くことにしている。途中の乗り換え駅で降りて、お気に入りの家系ラーメン屋で野菜盛りラーメンを頼むのが今のルーチンだ。麺量は中盛にし麺は硬めで、サービスでもらえるライスは中盛を頼むのだ。

 このラーメンの好みを聞くスタイルは、以前はとても面倒だったし、今でもそれほど良いシステムだとは思っていない。麺硬めと言うようになったのは「全部普通で」という注文の仕方が「何にも興味のない虚無な人」のように見えたからだ。それは、僕がその家系ラーメン屋を好きだからだろう。

 愛の対義語は無関心なんて言葉を聞くが、果たしてその通りだとは思わないが、好きなラーメン屋に対して無関心は良くないと思った。それなら、自分が考え得る最低限の好みだけは伝えようと思った。麺が硬い方が茹で時間が短く済んで早く出るかなという配慮で、僕の好みは麺硬めに決まった。

 そして、僕がこの注文をすると、別に釣られるわけじゃないと思うが、かなりの高確率で次のお客さんも「麺硬めで」と言っているのが聞こえる。このちょっとした注文によって、なんとなく店に対して乗っている雰囲気を表明しているのだ。ただ、その店の人から認知された客にはなっていない。

 酒場では会話を楽しみたいから、店側の人との交流が多少あった方が良い。でも、昼飯を食べる店に常連になるほど頻繁に通うことはないので、知らない客のままでいたいと思う。好みを伝えるのは、ただ単にその方が注文がスムーズに済むからだ。本当に店の人と仲良くなったら全部普通を頼む。

 そのラーメン屋の店員の会話によると、どうやら常連の好みは覚えているようだ。いつもと違う注文をすると「◯◯は入れないで大丈夫ですか」などと聞いている。そういえば、僕にも自動的にサービス半ライスを出してくれる行きつけのラーメン屋があったな。そろそろ行かないと忘れられそう。

本文とはまったく関係のない、我が家の近所にある奇抜で高価なまぜそば