ぬたぬたとした口ざわり

 いつの間にか浸透した食材として、僕にとってはアボカドが思い浮かぶ。小さい頃からあった食材ではないけれど、最初に食べた記憶も特にない。あんなに変な食感のものを子供の頃に食べていたら印象に残るだろうから、すでに高校生以上の年齢だったのだろう。知らぬ間に家庭の食卓にあった。

 ある時期、アボカドをわさび醤油で食べるとマグロの刺身の味になるというウワサが広まった。僕はマグロをそんなには好んで食べないので、果たしてそんな味だろうかと思った。そんな疑似マグロとして、我が家の食卓ではアボカドがそこそこの頻度で登場する。たぶん、母親が好物なのだろう。

 味覚的にはまったく異なるけれど、食材としての立ち位置として近いものとしてパクチーが挙げられると思う。パクチー登場は衝撃的だった。本当に苦手だった。まだ草むらに近い年齢の頃に食べたパクチーはその草むらに潜む何かの匂いを想起させた。カメムシみたいな匂いと聞いたこともある。

 パクチーが我が家の食卓に乗ることはない。たぶん我が家のメンバーはパクチーを食べられるとは思う。秋田出身で、セリの入った鍋をよく食べる。セリも香りは強い。それを好んで食べる我が家では、パクチーも難なく美味いと感じられるだろう。僕も何度目かの夏を越えてパクチーを克服した。

 ちなみにアボカドのことを「アボガド」と呼ぶ人がいるが、僕はそれを指摘することはないけれど、毎回違和感を覚える。これだけアボカドが浸透した世界でいつまでも「ガ」と発音するのは、たぶんある種の意思表明なのだろう。正しい発音を指摘する派の連中に対するアンチのような気がする。

 僕は、アボカドを知ったごく初期に、その発音を正確に覚えた。こんなにちゃんと初手からアボカドと呼ぶことを認識していたにも関わらず、その登場のタイミングをまったく記憶にないというのは不思議だ。その頃、同時に覚えるべきことがたくさんあったのだろう。今夜はアボカド食べたいな。

若い頃は苦いだけだったビールが、今は何よりも大好きな飲み物になっている。