スパイシーの向こう側
辛い食べ物は好きだが、辛いから好きなわけではなく、美味いものと辛味のバランスで味がアップデートされるものが好きなのだ。辛いものだけが好きなわけでも、辛さに強い耐性があるわけでもない。しっかり汗だくになるし、翌日はトイレで呻き声を漏らすことになる。それでも食べてしまう。
でも、この世にはいろんな種類の辛味がある。僕が許容できる辛さはオーソドックスな辛口のカレー程度のものだ。複雑な香辛料で味付けされた謎のエスニック食材などは、恐る恐る食べてはみるが、決して美味いとは思わない。ただ、この辛味なら何かの料理に使えるかもと考えることはできる。
たぶん僕が辛さを美味いと感じるようになったのは、パクチーを克服したのと同じくらいのタイミングだ。よく行くダイニングバーで、夏に食べる生春巻きにハマった時にパクチーも食べられるようになった。本当に苦手だったので最初は抜いてもらっていたのだが、もうパク抜きは考えられない。
春巻きは英語では、文字通りスプリングロールである。これに対して生春巻きはサマーロールと言うそうだ。中国では「ベトナム春巻き」ないし「夏巻き」と言われているらしい。ベトナム料理なので南国の食べ物という感じがあるが、グローバルな視点で見ても夏の料理というイメージを受ける。
そのダイニングバーで、僕にやたら辛い料理をすすめてくる厨房のスタッフがいた。辛くても美味ければ食べてしまう僕だが、何度も言うように辛さへの耐性が高いわけではない。適度な辛さでいいのだ。でも、なぜか執拗に彼は僕を辛味ゾーンに誘導し、僕の前にはハラペーニョが常に置かれた。
タバスコのグリーン瓶で、酸味と辛味をより強く感じるのがハラペーニョだ。頼んだ覚えはないのに、いつの間にか僕用の卓上調味料がアップグレードされていたのだ。だが、その店でこの調味料をかけると、もともと美味い料理がさらにレベルアップするのだ。そんな程度には辛味は好きである。