足音聞いて足跡残す

 走っているときは無心になることが大事だ。運動部のアップやトレーニングで走っているわけじゃなく、好きで走っている。走っているときの空気とか、走り終わった後の軽い疲労感が心地良い。そんな気分になれるのが無心になれたときだ。坊さんじゃないので、そんなに厳密な無心ではないが。

 思い返せば学生時代の部活でも、走っているときは頭の中で全然違うことを考えて小トリップしていた。考えるのも面倒なほど疲れていたりすると、知らないうちに何かのメロディを永久リピートさせていたりする。好きな曲とかではなく、ただ自分の走る足音とリズムがシンクロするような曲だ。

 その無限リピートが途切れる瞬間がある。リズムが合わなくなったときだ。ずっと同じスピードでは走れないので、疲れとともにペースが落ちて曲に乗れなくなる。体力的に余裕があるときは、無理やりリズムにスピードを合わせることもあった。いま思うと、そうやって限界を超えていったのだ。

 曲のリピート現象を起こすためには、ある程度の速度で走れないといけない。不惑以降の僕のジョギングでは速度不足のようだ。最近あの無限ループ状態に没入できた覚えはない。ちゃんと雑念が頭の中を支配している。その雑念がボンヤリとした夢の中の出来事のように感じる状態を無心と呼ぶ。

 今日は寒かったので、ひたすら苦行の気分で走っていた。途中で後ろからの足音が聞こえたと思ったら、あっという間に若いランナーに追い抜かれた。抜かれるのは一瞬だったが、なかなか走り去ってくれない。あまり近くを走られるとペースメーカーになってしまう。それは楽だけど恥ずかしい。

 数百メートルほど、僕のすこし前を走る若者の背中を追いかけることになってしまった。ヒタヒタと後をつける不気味な後続ランナーになっている。でも、こちらにもペースがある。それに前を人が走っていると追いかけたくなる心理も働く。そんな状態では雑念も無心もループ曲も湧いて来ない。

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僕のジョギングコースは用水路沿い。同じ水辺ならこんな川沿いを走りたい。