時代で反転する正義

 大学卒業後、最初の就職先に勤めている頃は、社会人ごっこのような毎日を過ごしていた。学生気分がなかなか抜けない僕は、なんとか社会性を身につけようと外側から武装することにした。それは通勤時に読む本だ。時代小説とゴルゴ13。僕の通勤カバンには、常にそのどちらかが入っていた。

 特にゴルゴ13は時事ネタが絡むことが多いので、ある情勢について理解することができる便利な漫画だった。いや、さいとう・たかを先生を偲んでここは正確に劇画と呼ぼう。そのゴルゴで、僕は社会の在りようを学んだような気がする。それがすべてではないが、ひとつの側面として理解した。

 さいとう先生は、多様なものの見方を持っている人だと思う。先生のインタビュー記事を読んだことがあるが、終戦後に「教科書を黒く塗りつぶして、それまでの正義がすべてひっくり返るという経験があるから、絶対的な正義などないことを思い知らされた」そうだ。そこにゴルゴの原点がある。

 ゴルゴは殺し屋なので、一般的には悪人と見なされる人間だ。他人の命をすぐに奪うし、頻繁に命を狙われたりもする。ゴルゴは自分のルールで生きている。相手のルールには従わない。もちろん犯罪者なので、相手のルールに従っていたら逮捕されるのだが、捕まっても逃げるタフな男でもある。

 こういうタフな犯罪者を主人公にしようという発想の元が、正義は時代によって反転することを幼少期に知ったことに起因する。世の中には絶対的な正義はないので、自分の中に揺るがない正しさを持たなければいけないということだ。それをゴルゴという極端な例を使い、我々に示しているのだ。

 奇しくもコロナ禍と呼ばれる現在は、いろんな正義が反転することを目の当たりにしてきた。ゴルゴならこんな世界でどうサバイブするのか、そう考えて行動の規範にする人もいたんじゃないかと思う。何が正義かを考えるのではなく、自分が生き残るためにはどうすれば良いか。方法を探すのだ。

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コロナショック直後の人の絶えた街は滅びた世界みたいだった。知らんけど。