石の波動に操られた旅人

 以前、旅行先で知り合った女性に「石を買うときは気をつけて」と言われたことがある。その旅先の田舎町は石が有名で、職人が細工した彫刻もあれば宝石なども売っていたようだ。石をよく知らない僕は、当然それを買おうとも思っていないのだが、その忠告から別のことが気になってしまった。

 その女性が切羽詰まったような言い方をしたので、その感じがスピリチュアル的な何かを想起させた。石には念がこもるとか、呪われた石を手に入れると不幸になるとか、とにかくオカルト方面の気配を察して引いたのだ。黙っていられないタイプの人間なので、その疑問を直接その女性に聞いた。

 とはいえ、僕がオカルティな意味で解釈したことを安直に伝えると、そもそも僕がオカルト側の人間だと思われそうである。そこを誤解されないように、笑える話のような軽さで聞いてみた。すると、女性は単に「偽物をつかまされるから、知識がない人は手を出さない方が良いよ」と返してきた。

 僕も最初はそういう意味だろうと思っていたのだ。でも、途中で「この人の話し方ってなんか圧があるな」と感じ、オカルト方面の疑いが生じたのだ。当初の話の雰囲気では、怖い話のトーンだったのだ。まあ、安い石ころを「宝石だ」と言われて金を騙し取られるのも別の意味で怖い話ではある。

 しかし、もう少し疑って考えてみると、僕の聞き方が悪かったのかもしれない。石についての疑問を差し込んだときに、僕の聞き方に軽蔑の気配を感じ取った可能性があるからだ。そうすると、その女性はもう本当のことは言えない。面白い異世界の話を聞くチャンスを逃した可能性はあると思う。

 本当は僕も、そういう話を旅先で聞けたら「最高の土産話だ」と思っていたのだろう。僕が勝手に想像したオカルト方面のイメージも、どこで入手した与太話かは知らないが、僕の中にそういう期待があって思い出したのだろう。もっと相手を素直にさせる有能なインタビュアーになりたいものだ。

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切石を積んで作られた寺院の遺跡。石の町・マハーバリプラムでの思い出。