果てなき地獄を知っている

 現在、ある仕事を頼まれているのだが保留にしている。その仕事に関わると泊まりになる可能性が高いからだ。他人の事務所で泊まるなんてことは絶対にお断りだ。それでも仕事を断るという、その一点に関して決めきれないものを感じている。どんな仕事でも引き受けることが信条ではあるから。

 長時間拘束される仕事は、どんなに近い関係性にも亀裂を生じさせることを知っている。その仕事を振ってくれた発注元は、もともと同じ会社にいた人間だ。その人の仕事が常に同業者をダラダラと付き合わせることになる様子は、元の会社にいた頃から見てきた。同じことが繰り返されるわけだ。

 本人も気がついているとは思うのだが、その締め切り間際にズルズルと周りを巻き込むスタイルがいろんな元凶になっている。そのせいで疎遠になった同業者も多いだろう。仕事が深夜に及んでくると、誰だって不機嫌になる。その魔の時間が何度か続いて、次第に考え方を改めてしまうのだろう。

 その発注元の人は、もともと人間的魅力で他者を惹きつけているようなタイプではある。平常時にはポジティブさと頼り甲斐のようなものを持っていると思う。そうやって惹かれた手前、一度の締め切りの不手際では降りられないと気遣ってしまう。そのせいで何度か付き合わされ、いずれキレる。

 不幸なエンディングしか見えない仕事だ。仮に引き受けたとして、不幸な結末を回避する策は僕のガマンしかない。それだけの犠牲を自分に強いてまで引き受けたい仕事だろうか。しかも、独立してから10年近くを経て僕に振ってきたということは、その間に多くの犠牲が払われているのだろう。

 でも、そういう雑で面倒な仕事をひとつ抱えておくのも大事なことのような気がする。それで、ある種のタフさは手に入れられると思う。ただ、僕はこの手のタフさはすでに入手済みなので、この歳になってそんな部分を強化したいとは思わない。現在、断る方に大きく振れているが、答えは未定。

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公共工事などに比べると極端にやりがいのない仕事ばかりが僕に振られる。