退路を断つ話法との対決

 交渉上手な人と話していると、いつの間にかその話を断れない雰囲気になっていることがある。前置きが長くて本題になかなか入らない話には注意しなければいけない。最近、知り合いから断りにくい仕事を頼まれて引き伸ばしている。できれば断りたいが、断るタイミングはとっくに過ぎている。

 タイミングを過ぎてしまうのは、その仕事を知り合いが依頼してくるのが締め切りの直前だからだ。それでも断っていたのだが、ひと月前に夜中の電話で頼まれた時に、面倒で引き受けてしまった可能性がある。寝起きだったので面倒だったというのもあるが、迂闊というしかない。取り消したい。

 なぜ僕に頼むのか。その仕事は専門性もないし、僕が持っている特別な知識(そんなもんはないが)を生かせるわけでもない。誰でもできるのだが、社内の手が足りていないのでバイト的に使いたいということらしい。猫の手を貸すくらいは構わないのだが、その仕事は徹夜になる場合があるのだ。

 内容を聞く限りリモートでもできそうなことだが、家でやるにしても夜は普通に眠りたい。それが「何時になるかわからない」というのでは話にならない。その事務所は我が家から2時間近い距離だ。そういう仕事は近所の人に頼めばいいのに、と考えてピンときた。誰もやりたくない仕事なのだ。

 思えば前置きが長いというのも引っかかる。最初は簡単な仕事としか言ってなかったのだが、いざ聞いてみると問題なのは内容じゃなく時間の方だったのだ。その点だけは譲れないので、断固とした態度を取ろうと思っている。ただ、もっと手前で断れたのにとも思う。僕は騙されるタイプなのか。

 この辺が先方が交渉上手だと感じる所以である。僕にも多少の非があるように感じさせるという騙しのテクである。相手を巻き込むのだ。そういう話法なのだから、自分の落ち度を責める必要はない。ただ、この手の話法を知り合いから使われるとは思ってもいなかったので、その点だけは悲しい。

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その知り合いの仕事を手伝う時に寄る家系ラーメン屋。罪深き美食ではある。