とんかつたべたい

 たまに禁断症状のように、トンカツが食べたくてたまらなくなる。よくあるトークのお題として「最後の晩餐は何にする」と聞かれることがある。その都度自問し、結局はトンカツが勝ち残る。ただ、トンカツを食べられる体力があるなら死なないだろうから、それを最後に選ぶことはないだろう。

 僕は割とサッパリしたものが好きだ。サラダも好んで食べるし、和食の小鉢ものなどもうれし楽し大好きだ。今の時期は酢の物があると最高だと思う。それでも、この暑い盛りの日々を乗り切るためにはトンカツが必要だと感じている。店の候補はいくつかあるが、どれも都内なのでしばし我慢か。

 時節柄もあり、また僕の胃力的にも不可能だと思うので、脳内でトンカツ屋をハシゴしてみようと思う。まずは東日本橋界隈にあるこじんまりとした店に向かおう。そこは老齢の男女2人で切り盛りする店。夫婦かどうかは確認してないので知らないが、醸し出す雰囲気から察するに夫婦だと思う。

 この店の2人がなんで夫婦だと思ったかというと、ある客が帰ったあとで漏らした悪口の雰囲気が似ていたからだ。長く暮らしているから似てくるのだろう。女性の方がキツめの文句を言っていたのだが、男性の方もそれを咎めるでもなく、悪口をちょい足しした。まさに阿吽の呼吸というヤツだ。

 そんな、ちょっとスパイスの効いた店の雰囲気とは裏腹に、トンカツ自体は丁寧かつ大きくて旨い。よくあるキャベツ・ご飯・みそ汁おかわり自由というサービスはない。でも値段は安いし、ボリュームもあって大満足。そして、常連ヅラした客が帰った後の悪口も冴え渡っている。ごちそうさま。

 もう一軒行こう。僕が以前勤めていた渋谷にある地下の店だ。ここは主にサービス面が秀逸な店で、お通しで出る3種類の漬物やボールで供されるサラダなど、トンカツまでの前菜で満足してしまう。だから、トンカツを食べる前に満たされてしまう。しかも、それらをアテにビールも飲んでいる。