去りがたき戦場

 締め切り間際の職場というのは「祭り」のようなもので、熱狂の渦の中で浮かれる。僕の仕事は、締め切りを過ぎた現場で先方と調整しながら残りの仕事を後追いで納入させる手伝いだ。あくまで手伝い。現場の中枢にはおらず、自分の意思でできる仕事もない。ただ、スピードだけを求められる。

 その現場で足りていない手足の1本分くらいの仕事はしていると思う。でも脳みそではないので、最後まで残ることはない。手足の仕事は途中で終わってしまう。だから、ここ数年は仕事の最後を見届けることができない。まあ、僕の担当分が終わった時点で「おしまい」と割り切れば良いのだが。

 締め切りが過ぎているので、常に殺伐としている。その仕事が終わったとしても、そのあとで担当者は少しだけ怒られるか注意を受けることだろう。僕が駆り出されている段階で「追加予算」のようなものなので、僕も堂々と仕事しにくい部分はある。でも、そういう小さい仕事が僕の生活の糧だ。

 以前、同様の仕事を会社員としてやっていた時は、締め切りが終わると徹夜続きなので早く帰りたかった。だいたい朝に終わり、昼過ぎまで先方確認の電話を待たなければいけない。それが終わって早退したいのだが、その会社では締め切り後に社長が「次回のため」と称してミーティングを開く。

 思考能力ゼロの僕と担当者数人が席に着き、次回の締め切りまでの進行を話し合うのだ。泊まり込みで仕事していることは社長も当然知っていることだ。でも、それを労うことはない。なぜ泊まらなければいけなかったか、もっと楽なスケジュールは組めないのかと問われる。その時の僕は白目だ。

 その時僕が考えていたのは、早く早退して、職場近くのトンカツ屋でひとり打ち上げをすることだけだ。昼飯も食べず、朝からの流れで会議に入ってしまったので体力ゲージは底近い。記憶が途切れる寸前までいって会議は終わり、席を立つと「早退します」と言い置いてトンカツ屋に走る締切日。

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いくつになってもトンカツ好き。俺の皮膚は衣、筋肉は豚肉、血はソースだ。