一心不乱を一刀両断

 何かに一生懸命打ち込んでいる姿は美しいとか、立派だとか言う。目標を成し遂げるためになりふり構わない姿勢も、努力して成功する例として美談となる。でも、それは遠くから見た場合の話だ。結果が出た後の事後報告だ。その真っ只中にいる時は美しくも立派でも、まして美談でもないのだ。

 これはスポーツや仕事のことを言っているのではないが、スポーツや仕事のことに置き換えても構わない。僕が言いたいのは、街中で一心不乱に歩く直進歩兵団のことだ。説明しよう、直進歩兵団とは「混雑したエリアで自分の行きたい方角に向かうため、雑踏の秩序を乱す者ども」のことである。

 僕はむかしから雑踏で他人にぶつからずに歩くため、視線を遠くに置いて混雑を切り抜ける手法を用いている。ラッシュアワーでやけに人にぶつかる時と全然ぶつからない時があり、その話を先輩にしたら「遠くを見れば良いんだ」と言われたのがキッカケだ。それ以降は、雑踏が怖くなくなった。

 ただ、この手法が通用するのは「流れがある雑踏」に限られる。ピタッと止まってしまうような混雑の中では、遠くを見ると気が遠くなってしまう。でも、停滞が生まれる瞬間を見つけると「遠くを見て歩け」と口を挟みたくなる。この停滞を生むのが先の直進歩兵団なのだ。歩き方が未熟なのだ。

 彼らの歩きを分析すると、最短距離を行こうとするクセがある。その最短距離が、エリアのマナーでは逆走に当たっていても気にしない。または気付いていない。とにかく、歩数を節約したいようだ。そんな彼らは若い、または学生の場合が多い。まあ2人以上の学生は存在自体が暴力ではあるが。

 先ほど、仕事先へ向かう電車の乗り換えで雑踏に軽く揉まれた時に、僕は「早く乗り換えたいな」などとボケ〜ッとしていた。動きとしては直進歩兵団のそれと変わらない。意志を持たない人間は、ひとりの直進歩兵に追随する雑兵になってしまう。それに気付いた時にはすでに雑踏を抜けていた。

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気持ちに余裕がない時は、なるべく慣れた味のものを食べる。そんなセット。