叫ばずにはいられない

 昨日、配信ライブを観ていたら、女性アーティストがMCで「私が今言いたいことはひとつだけ、コロナの馬鹿野郎ー」と叫んでいた。みんなが対策のことで不満を抱えていろいろ言うけれど、確かに本質はそこだなと思った。それを言っても何も解決しないけれど、言わずにはいられない言葉だ。

 そのアーティストのことはなんとなく真面目っぽくて好みではなかったけれど、その叫びを聞いてすこし好きになった。政治的なメッセージで湿っぽくされるよりは、率直な気持ちを叫んだ方がスベっても清々しい。そのライブは日本最大級のフェスの配信だが、この時期なので会場は静かなのだ。

 静かな会場で叫べばシ〜ンとなるのは分かり切っているのに、それでも止むに止まれぬ大和魂で叫んでしまったように見えた。観客はマスクをしているので表情は見えないが、目顔で笑っていることは分かる。その笑顔はスベった人間を見る目ではなく、ちゃんと温かく見守る目だったのが素敵だ。

 僕が人前で大声を出してスベったのは学生時代、当時付き合っていた女の子と別かれぎわに雑踏で「愛してるよ」と叫んだことだ。みうらじゅん氏が言うところの完全な「恋愛ノイローゼ」状態だったらしく、そんな強めのメッセージを相手に送らないと気が済まなかったのだ。恥ずかしい記憶だ。

 その時、僕は「言ってやった」と言う気持ちで帰るので堂々としたもんだったのだが、言われた相手にとってはとんだ貰い事故だ。しかも、その人は駅の改札前で言われたのだ。同じ方向を進む周りの人間と、その後も長らく同じ道をたどる。その間ずっと「さっき言われてたな」の目で見られる。

 でも、僕も何の理由もなくそんなことを叫んだりしない。何か「言わなきゃいけない」と思わせる兆候が相手にあったと思われる。不器用で言葉の足りない僕が、どこかで起死回生のひと言を考えていたのだろう。その結果、原宿駅前でこんな凶行におよび、四半世紀経っても恥ずかしがっている。

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これは何年も前の、幕張の夏フェスでの写真。絵に描いたような夏の雲だ。