旅の空、華麗に和風に舞え

 中年になると昔話が多くなるが、僕もご多分に漏れず過去のストックで会話をもたせることが多い。実地の体験が激減している今年などは、特にその傾向が顕著である。僕は旅行を「趣味」の欄に記入できるほど定期的に旅歩く人間ではない。だから、旅行の体験も少ない在庫から話すことになる。

 多くの日本人がそうなのかもしれないが、僕も無性に和食に焦がれる時がある。大学時代、ひとり暮らしで日々エサのような粗食をかっ込んでいた時期は、久しぶりに居酒屋で食べただし巻き卵が妙に美味くて泣きそうになった。我が家の味を思い出したわけではないのだが、ノスタルジーだろう。

 日本的な味付けは落ち着く。日本で食べるものに関しては、それが中華料理だろうがフランス料理であろうが、日本人に合わせた味付けになっているはずだ(フランス料理なんて結婚披露宴でしか食べないが)。それは、第2日本食みたいなものだろう。それでも、たまにザ・和食を食べたくなる。

 僕が和食を食べたい欲を最もこじらせたのはインド旅行中だ(これも20年も前の話なので、そろそろ情報を更新したいものだ)。インドといえばカレーだが、かなり初期の段階でこの味付けに飽きてしまった。貧乏旅行を標榜していたので、最高のインド料理を食べてこなかったというのもある。

 南インドの田舎町で知り合った女の子(日本人)を追いかけて、そのエリアの大都市までバスで出た。その子が日本食レストランに行くと言ったので、僕もついて行った。本当は日本に帰るまで和食とは縁を切るつもりでいたのだが、僕は最初のプランをアレンジすることを厭わない柔軟な人間だ。

 その日本食レストランは、僕が食べていた現地の飲食店と比べれば多少は高かったが、とは言え現地の高級店ほど高くもない料金だった。何を食べたかは忘れたが、日本人が作るちゃんとした和食だった。料理は忘れたが、豆腐入りの味噌汁は覚えている。僕の和食欲求は味噌汁に集約されるのだ。

f:id:SUZICOM:20201013102107j:plain

ポンディシェリーで知り合ったガールは、カルカッタへと旅立って行った。