味覚警察の憂うつ

 外食の際、不味い料理に出くわすことは滅多にない。でも、慣れない味というのはある。外国の料理で、その国独特の味付けをされているものだ。それは不味いわけじゃない。理解できないだけだ。そんな料理に出会った時は、その味の何が引っかかっているのかを探してみると克服できたりする。

 昨日のランチで食べたスーラータン麺は、僕の想像よりもすこしクセがあった。もっと咽せるような酸味を想定していたのだが、そのスーラータンは酢と胡椒がタップリと入ってはいるものの、酸っぱくはない。むしろ臭い。臭い料理は病みつきになることがあるが、そんなタイプの臭みではない。

 これと同じような臭さを僕は知っている。虫歯の匂いだ。どんなプロセスで酢と胡椒が虫歯臭に変化するのかは謎。でも、一旦そう感じてしまうと、丼から麺をすくうたびに口臭波に襲われる。臭いなら残せば良いのだが、その時の僕は使命感に駆られていた。この匂いの向こう側を見てやろうと。

 その店に同行した人は、このスーラータン麺を「クセになる」と、だから「たまに食べたくなる」と豪語していた。その病みつきになる要素を探り当てるための鑑識だ。食べ進めて行くうちに、この匂いはスープだけ飲んだ時にはあまり感じないことが分かった。何故か麺をすすると強く匂うのだ。

 ちなみに、スーラータン麺のような本格中華然としたラーメンを出す店は、比較的麺の量が多い。そして茹ですぎ気味である。さらに言えば、この手の汁麺は熱い。あんでトロミも効いているので麺との絡みはしっかりしている。その麺をすすることで匂いが強めに発生するのだから手に負えない。

 結局、残さず食べても「病みつきの要素」は見つからなかった。後味として口の中に口臭が残った。その時「ある可能性」に気がついてしまった。僕が臭いと感じていたのは、そもそも自分の口臭だったのではないかという仮説である。自分の口臭を強く感じさせる味付け、気づきのスーラータン