停止して窓ガラスを下ろせ

 小さい頃、僕が住み暮らす市内には駅がなかったので、電車に乗るためにはバスで隣の市の駅まで出なければいけなかった。少し大きくなると自転車を使うのだが、中学高校生の足でも30分はかかったと思う。たまにスピード自慢の男が「10分切ったぜ」などと、無意味な見栄を張っていたが。

 市内でも住むエリアによって使う駅が違い、僕が幼い頃は「亀有」駅の方を使うことが多かった。埼玉県民なのだが、我が家の最寄りのバス停が亀有駅行きバスの路線なのだ。それが、中学高校になると県内の移動が増える。部活などで試合するのは県内だ。全国大会にでも出れば話は違うのだが。

 その最寄り駅は高架じゃなかったので、電車は地上を走っていたはずである。ただ、その記憶がほとんどない。亀有の方は高架だったと思う。高架下の駐輪場が大きかった記憶があるが、その後、自転車で亀有駅を利用しても駐輪場の大きさは感じられなかった。子供の目には広く感じたのだろう。

 最近はどこも高架化が進んでいて、あまり踏み切りで待たされることはなくなった。どこに住んでいても、周辺にひとつは「開かずの踏み切り」があったものだ。何にでも情緒を感じてしめった気分になりがちな僕だけれど、踏み切りに関してはなんら情緒を感じない。邪魔でイライラするだけだ。

 僕が生まれてから、イチバン待たされた踏み切りは下北沢の小田急線だと思う。学生時代、バイトで金ができると下北沢の古着屋に行ってセコい買い物をしていた。何軒か店を回ると疲れるのだが、限られた予算で最高の買い物をしなければいけない。だから、何回も踏み切りで待たされてしまう。

 あの踏み切りも今はもうない。踏み切りがなくなってからの下北沢にも行ってない。まあ、今は血眼になって古着を探す気持ちもないし、あの頃の店も閉店している。多少の懐かしさはあるが、自分が住んでいた街ではないので、好きな街だと思う割に愛着はない。踏み切りの終焉が縁の切れ目か。

f:id:SUZICOM:20200910164453j:plain

異様に低い高架下の通路が長身の僕を猫背にさせる。あと、跨線橋は好き。