後ろ姿も美しい

 むかしから行列には並びたくないタイプだ。駅のホームから改札階に向かう階段で、気が滅入るような行列ができていると、その列がおさまるまでベンチで休んだりする。行列に並ぶ行為の嫌悪感は時間を無駄に消費させられることへの反感だと思うので、実はベンチで待つ方が無駄は多いのだが。

 でも、自発的にベンチで休んでいるので、それは自分で決めた選択だ。電車で読みかけだった本をキリの良いところまで読んだりして、無駄なきよう調整する。そして、本を閉じて階段に向かうと、後続の電車でまたホームが混んでいたりする。そうなるといよいよ無駄なので、仕方なく列に並ぶ。

 そんな行列嫌いの僕でも、どうしても並ばざるを得ないのが銀行のATMだ。コンビニのATMなら空いているときがあるが、駅近の銀行では数人並んでいることが多い。コマが多い場所なら、行列が長くてもスイスイと進む。でも、コマが少なくて給料日だったりすると、少人数でも待たされる。

 このように、どうしても待たされる場合は、気持ちを切り替えて考え事に没頭したり、人間観察で妄想の世界に飛ぶ。行列で目に入る人間は後ろ姿なので、想像の枝葉は自在に伸びていく。先日もATM行列でウンザリしていたが、前の女性の後ろ姿からの連想で退屈地獄から逃れることができた。

 小柄な女性だったが、大きめのトレンチコートが印象的で「オレも探偵が着るようなトレンチコートが欲しいな」と物欲を刺激された。女性のファッションを参考に服を選ぶことが多いのは、こういう妄想を街の至る所でしているからだろう。誤解なきように注記するが、決して女装趣味ではない。

 僕は人間の美しさの基準をシルエットで捉えることがある。顔が綺麗だというのは短絡的に過ぎる。それよりも、全体のバランスが大事だ。後ろ姿ではせいぜい顎のラインまでしかわからないが、そのシルエットが綺麗だったら、それは美的な対象だ。そのトレンチコートの女性も十分美的だった。

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建造物の基礎工事をしているのを見ると、部屋割りなどの妄想が膨らむ。