無口な辻占い

 他人の会話を勝手に聞いて、頼まれてもいないのに心配になる時がある。片方が聞き役になっていて、もうひとりが延々と語り散らしているようなシチュエーションでは、聞き役がブチギレないか不安になる。話し手はどんどんハイになって、聞き手は徐々に合いの手を入れるスパンが開いていく。

 この一方的な壁役になるのは男で、壁に打ち込んでいるのは女が多い。男同士で一方的に話し込まれてしまうのは、ほとんど説教だ。上司や立場的に強い者が、弱い者にダメ出しする場合にそんな状況になるだろう。でも、それを人前でやると別の罰が乗っかる。見せしめによる恥ハラスメントだ。

 昨日も酒場でテンション高めの女性が、先に待っていた男友だちに今日の出来事をまくし立てていた。こういうテンションは苦手だなと思いつつ、聞き手に徹するとモテるんだよなぁと感じていた。僕は正直に相手に「テンションが高くて怖いよ」と伝えてしまうタイプだ。そう言うと人は傷つく。

 今は壁役の場面ではダンマリを決め込む。あまり長く壁にされるのはツラいので、近くの人を巻き込んだりする。壁をズラして役割を分担するのだ。話し手は壁が変わっても気にしないように見える。でも、きっと心の片隅では小さく傷ついていることだろう。それでも僕は壁をズラし続けていく。

 僕は無口だと思われる場合が多いが、それは聞き役をやらされて仕方なく黙っていることが多いからだ。よく話す人間は、その無駄な文字数を誇って次第に声が大きくなる。文字数による陣取りゲームの勝者だと声高に宣言しているのだ。でも僕は内心「そんなゲームは存在しねえ」と思っている。

 どうでもいい話を次から次へと繰り出せるのは社会人としてのスキルだと思う。それは、仕事の相手に対する前説として、楽しげな時間を作って温めるスキルだ。それが日常で発揮されると邪魔に感じたりする。言葉の数で勝負しないで欲しいし、文字数が多いから明るい人なわけでもないだろう。

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侍の時代なら、口数の多い人間は「浅いやつだ」と軽く見られていただろう。