G線上で震えて眠れ

 ド頭から【グロ注意】を掲げておこう。先ほど、朝のシャワーを浴びようと浴室に入ったら、足元に黒い影が走るのを見てしまった。見なかったことにしてシャワーを浴びるという選択肢もあったかもしれない。でも、一旦ヤツの気配を感じてしまったからには、うかうかとシャワーを浴びれない。

 以前の住まいでは何度かお目にかかっていた「G」だが、この家に越してきてからはヤツが住み着いている気配は感じなかった。ただ、浴室にはたまに虫が闖入してくることがあった。先ほどのヤツも、そういう闖入者であってほしいと切に願う。同居人だと思うと、常に油断できない生活になる。

 他の虫なら捕まえて逃すという友好的な手段を取れる。しかし、ことGに対してだけは強硬策をとるしかない。具体的な方法は記さないが、先ほども強硬な手段で身の危険を回避した。ヤツに対して、なぜこのように頑ななのだろうか。Gへの対策品の数々も、総じて強硬な手段に出る商品が多い。

 つまり、ほとんどの人間は、ヤツと対峙すると戦闘モードになるということだ。自分の手を汚さないワナのような商品も多い。絶対に武器を持ってしか戦えないし、使った武器はなるべく処分する。ヤツの痕跡は、すべて汚れたものとして扱われる。人間の方が勝手に嫌っているだけのことなのに。

 以前、渋谷にあった居酒屋で、いつでもGとネズミが店内をうろちょろしている店があった。僕は大嫌いな店だったのだが、その店でしか飲みたくないという人がいたので付き合いでたまに行った。店内でヤツを見かけても、騒ぐ人間はまずいない。むしろ、騒ぐことで客としての格が落ちるのだ。

 その店は壁が白い。その白い壁に、常に数匹のGが移動している。そいつらが高い位置にいると緊張する。我々が最も恐れるのは飛行だ。ヤツに飛ばれたら最後、片時も油断できなくなる。内心、飛ばないことを祈りつつ動静を窺っていると、店のお姉さんが丸めた新聞紙でパシッと叩き落とした。

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美味い店の影にGありと人は言う。しかし、それは店主の衛生観念次第。