指先に不吉な影

 僕は、今でこそケガのデパートよろしく運動するたびに肉離れするスペランカーだが、学生時代はケガとは無縁のスポーツマンだった。それは目立ったケガをしないというだけで、細かいところは無視して練習していたに過ぎない。無理をしていた。だから、日常生活ではホトホト疲れ果てていた。

 そんな細かいケガの中でも、特に手足の指先を傷めることが多かった。練習中に左手の小指を突き指して、第二関節が脱臼してオンブバッタのような形状になったことがある。その直後は痛くないので、その形状の面白さで笑いを取っていたら、ケガに詳しい先輩から「病院に急げ」と注意された。

 すぐに治療したものの、その小指の関節には今でも違和感があり、曲げ伸ばしするとカクカクする。小指をケガした時に、僕は小指の重要性に気付かされた。手の動きのガイドとして、小指が果たす役割は大きい。健康では気付けない部分だ。この動作のおかしい小指も大事に使わないといけない。

 さらに遡ること小学生の少年野球の場面、キャッチャーをやっていた僕は突き指で途中退場したことがある。ミットに添えた右手の薬指に、ワンバウンドしたボールが直撃したのだ。監督だった父親には「大したことないだろうけど」と言われつつ、コーチのクルマに乗せられて接骨院に向かった。

 接骨院の待合室には漫画がたくさん置いてあるので、普段なら漫画を読んで待つところだ。でも、その日の突き指の痛みは凄まじくて、僕は吐き気を我慢してじっと耐えていた。治療中も気持ち悪くて仕方がない。痛すぎると吐き気をもよおすということを味わったのは、後にも先にもその時だけ。

 スパイクを履いて行うスポーツの選手にはよくあることだと思うが、足の爪は何度もはがれている。親指の爪が真っ黒になって、しばらく放置していると、下から新しい爪が生えてくる。だから、もし僕が拷問にかけられて「爪はぎ」をやられても、足の爪だけはそれほど痛がれないかもしれない。

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車幅を規制する障害物。屋内なら、足の小指をひっかけそうなオブジェ。