週末、海にでも

 僕は、夏の誘惑に駆られて海に行くというタイプではない。どちらかというと季節外れの海の方が好みだ。それは、混んでないからだ。でも、昨今は動きを抑制されている情勢でもあり、夏の海もそれほど混んでいないのかもしれない。別に海に行って泳ぎたくはないが、ただ惚けたい願望はある。

 カセットに好きな曲を詰め込むチューブの季節だ。チューブ自体はあまり聴かないが、このフレーズで喚起される夏のニュアンスは好きだ。カーステを流して海へ向かう道中のワクワク感は、この先に何かがあっても、何もなくても、そのプロセスがすでに楽しい。まさに輝ける青春の瞬間なのだ。

 海に行く計画が持ち上がると、その日に向けて、仲間と顔を合わせるたびにウシシな妄想を語らうことになる。前日までは「ナンパしようぜ」などと勇ましいことを言ったりもする。でも、実際に当日になると、誰も女の子の話などはせずに、海ではしゃぐだけで終わってしまう。それでも楽しい。

 海遊びは疲れる。大人になってからは「海には入らなくていいや」と思うのだが、行くと入ってしまう。波で泳げるわけもなく、ただ波にたゆたっているだけだ。あの波の感覚が「地球に攪拌されている」ような気がして気持ちいいのだ。それで、つい時間を忘れて海に浸かり、体は疲れてしまう。

 海からの帰りのクルマは無口になる。疲れているから、というのもあると思う。でも、海に大きな忘れ物をした感覚が残ってしまうのだ。前日まではあんなに盛り上がったナンパ大作戦も未遂に終わっている。いや、そもそも作戦を遂行する気なんて誰にもない。ただ、この未練を味わいたいのだ。

 この帰りの無言を含めて海遊びなのだ。最後に「今年も何もできなかったな」というセリフを言うためのストーリーだ。そこにユーミンの「ハローマイフレンド」なんて流れたら最高のエンディングになるだろう。とりあえず、海用のプレイリストは作っておこう。準備するのに越したことはない。

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インドのコバラムビーチ。西洋からの旅行客が多い。もちろんナンパは未遂。