街角にブックマーク

 近所のラーメン屋で昼メシを食べたあと、その店の近くに古本屋を発見した。ずっとそこにあったような佇まいだったが、この界隈に引っ越してきて10年以上経っているのに全然気付かなかった。もしかしたら最近できたのかもしれない。そう思って見ると、いや、看板には年季を感じさせるぞ。

 地元の商店というのは、なんとなく入るのに勇気がいるものだ。それは怖いという意味ではない。それよりも、その土地の人間の呪いのようなものだ。平日の昼から古本屋に顔を出す中年男が、その町で如何なる噂をされるかは想像に難くない。そんな懸念を残しながらも興味が勝って店に入った。

 実は古本屋で欲しいマンガがあった。ドカベンの31巻だ。特にドカベンが好きなわけではないのだが、少年チャンピオン黄金時代の最高傑作だと誰かが熱く話すのを聞いて、ぜひ読んでみたいと思った。話を聞く限り知っているエピソードなのだが、それがひと塊りに載っている特盛り巻なのだ。

 全国チェーンの古本屋グループで探しても、無駄足に終わりそうな予感があった。だが、地元の個人店ならば可能性がありそうだし、無かったとしても落ち込まない。そりゃ、そうかと思うだけだ。そして、無欲な時の僕は意外な強運の持ち主だったりする。そこに期待した時点で無欲ではないが。

 そんな僕の心根を読まれたのか、やはりドカベンの31巻はなかった。そこに並ぶ漫画のラインナップは、狭い店内の割にはビッシリと揃っていた。でも古いドカベンはなかった。プロ野球編が何冊か置いてあったが、それすら奇跡のように思えた。果たして僕は、今後どこかで出会えるだろうか。

 その古本屋でドカベンがないことを確認した時点で店を出ても良かった。でも、なんとなく気まずかったので小説コーナーもチェックしてみた。こちらのラインナップも悪くない。それはつまり、僕の本棚に似ているってことだ。だから買う必要がない。僕の趣味がいかにミーハーかを思い知った。

季節外れの写真だが、季節を問わずこの花の香りはいろんな場所で漂っている。