文庫の隙間に愛を込めて

 先日、読んでいる本の途中にレシートが挟まっていた。その本は古本屋で買ったものだったので、そのレシートを見て「ワンオーナーなんだな」と思った。書店で購入して、間に誰かを介することなく僕の手元に渡ってきた証拠のように思えた。今後、僕も文庫の間にレシートを挟むことにしよう。

 以前、手塚治虫の「ブッダ」の文庫版を読もうとしたら、最初の何も書かれていないページに誰かの手書きメッセージが添えられていた。その本も古本屋で買ったものなので、前オーナーが誰かから本を送られた際のメッセージのようだった。文面から、たぶん送られた相手は外国人だと思われる。

 それは、冒頭の手書きメモに「この本は日本語がわからなくても理解できると思います」と日本語で書かれていたからだ。果たして日本語がわからない人に伝わるメッセージなのかは不明だが、しかし「ブッダ」ってそんなに単純な物語だろうか。言葉を超越した絵の伝達力を信じたい気はするが。

 とにかく、僕は古本屋をよく利用する。もちろん書店で新しい本も買うのだが、書店の店頭在庫は最新作か人気作家のコレクションくらいしかない。本来ならば書店で注文した方が、僕の好きな作家へのエールにはなるのだが、なかなか面倒でやらない。結局古本屋で探すことになるし、見つかる。

 先のブッダのように、古本ならではの奇妙な発見は面白く思える。潔癖症が先に出たら、リアルな誰かの残留思念を気持ち悪く感じるかもしれないが、少なくともブッダの時は面白がれた。本の内容が僕に慈悲の心を授けてくださったのだろう。ただ、もっとリアルに嫌悪感を感じる落書きもある。

 僕は数年前まで、現在日本でもっとも巻数の多いマンガを集めていた。その初期作のほとんどは古本屋で購入した。そのうちの一冊に、ページを塗りつぶすような落書きがあった。中程の数ページにわたって、読む気も起こらないほどの密度で塗りつぶされていた。元の持ち主のメンタルが心配だ。

古本屋で買った文庫に挟まっていたレシート。品質保証書のような感じもある。