ワイルドキャットの夜

 犬派猫派論争。僕はどちらの派閥にも属さないが、人から聞かれたら「犬の方が好きかな」と答える。犬とは縁がある。別に良い話でも何でもないが、よく噛まれる。小さい頃から最近まで、何度か印象的な噛まれ体験があった。だから恐怖の方が優るのだが、それでも接点があるだけ犬派に近い。

 知り合いが捨て猫を飼っていたことがあり、その家に行くと猫の痕跡や臭気が漂っていたのを覚えている。僕が貸した漫画に粗相されて険悪になったこともある。あの漫画は「拳児」だった。僕が大好きな漫画を全巻貸したら、そいつが読む前に猫の排泄物で汚れた。あの時は冷たい怒りを覚えた。

 たぶんそいつはハナから読む気がなかったのだ。押し付けられた漫画を放置して、読まずに済む理由を探していたのだ。そのことが実感できたので、僕の心の芯が冷えた。人間の嫌な部分を見せられて、怒りながら冷めたのだ。そいつとは現在没交渉となっており、以来猫のことも少しだけ嫌いだ。

 ペットを飼ったことがないので、動物との触れ合い方が分からない。いや、実際ペットを飼う必然性はないので、触れ合い方なんて分からなくて良いと思うのだが。動物と人間は傍観者の関係で、お互いに警戒し合うくらいでちょうど良いと思う。そんな本心は言えない。そんな風潮に負けている。

 傍観者としてなら、僕は野良猫を見かけるとちょっと嬉しくなる。現在では野良犬はいないので、ヒモに繋がれていない犬を見ることはない。でも、人に飼われていない猫は自由で、その動きを注視してしまう。夜中にパッタリ路上で野良猫と向き合ったりすると、お互いに様子見で動けなくなる。

 野良猫と言いながら、商店街などでよく見かける猫などは、その地域の共有ペットみたいに可愛がられていたりする。そんな地域のアイドル猫が、年齢的に野良暮らしが厳しくなってきたらしく、行きつけの居酒屋の店主が飼うようになった。そして、つい先日その最後を看取った。安らかに眠れ。

居酒屋に勝手に入ってきて、お気に入りの席に陣取ってくつろぐ当時の野良猫。