地平線までドリブル

 現在、4年に1度の祭典が中東で行なわれているので、公衆の面前では言葉に気をつけなければいけない。僕はサッカーを知らない。もちろん最低限のルールは分かるし、ワールドカップの仕組みも理解している。でも観続けている人とは大きな差があるので、知った顔で話さないようにしている。

 そんな風に警戒しているつもりだが、気を許してしまうと隙が生まれる。もの凄くサッカーに詳しいファンの前で、僕が数試合観て感じたインスピレーションを伝えるのは失礼だと脳内では理解しているのだが、酔いや相手の優しさに甘えて、つい自分の感想をまるで新説かのように語ってしまう。

 そんな新説に対しての、ベテランの意見を聞きたくなるのだ。もっと言えば褒められたい。サッカーを知らないわりには鋭いことを言うと思われたいのだ。でも、途中でそんな甘えた行為が恥ずかしくなるので、トーンダウンして話を終わらせる。だから、結局は最後まで自論を言えたことはない。

 今回のワールドカップに関しては、開催時期に違和感があって気持ち悪い。夏場にオリンピックを強行した国の人間特有の意見なのかも知れないが、いつもの季節じゃないという肌感覚がある。無意識に体に染みついたスケジュールがあり、野球のシーズンが終わると頭が冬季スポーツに移行する。

 僕の気分と無関係に、彼の国では大会の日程が淡々と進んでいる。日本代表は初戦で歴史に残る番狂わせを決めたが、次の試合で負けて意気消沈の現状である。初戦の盛り上がりで国内の熱がブワッと上がった気がしたので、完全に乗り遅れた僕は焦った。観るだけだが、踊る阿呆になりたいのだ。

 ベスト16に進むためには、次のスペイン戦で引き分け以上が最低条件となる。時差のある世界特有の寝不足上等な時間帯の放送だ。もしかしたら最後の踊る阿呆チャンスなので、特別営業する酒場で観てやろうかなと思っている。熱心なファンしかいない店で、孤立する覚悟で見届けたいと思う。

金沢の城。こういう場所の近くに球場を作れば、海外からのファンが増えそう。