ラウドビアホール問題

 居酒屋というのはうるさいものだ。席数が多いほど、雑多なノイズが渦巻いて空間を埋め尽くしている。それでも、しばらくその場にいれば慣れる。連れがいる場合は、最初は聞こえなかった声が判別できるようになる。ただ、それは全体が同じような音量で話している場合だけに限った話である。

 周りの音量に歯向かうように、その場でナンバーワンのラウド野郎を目指す人間がいる。僕は音楽は大音量で聴く方が好きだが、話し声がうるさいヤツは迷惑としか感じない。理解不能な負けず嫌いのラウド自慢が、周囲の人間の耳の穴目掛けて大声をぶち込んでくる。鼓膜破りスナイパーである。

 昨日の夕方、仕事の依頼で出向いた知り合いの事務所で打ち合わせを終えると、そこの社長から飲みに誘われた。仕事の肝心な部分を詰めてないので、おそらく飲みの席で最終的なギャラの話をしたいのだろう。人前で言えないということは、それだけ安いってことだ。すでに気持ちは萎えている。

 そこで入ったのが、最寄りの駅周辺の格安な居酒屋だ。店内が明るく、ほとんどの席が埋まっていたので、落ち着いて話せるは雰囲気ではない。入店直後は全体的にワーッと包み込んでくる騒音だったが、席に着くと、隣席の二人組がシャウトしていた。早々に僕の右耳は聴力を奪われてしまった。

 まあ話し声がうるさいということもあるのだが、そんな声量で話す人間の人体が気になる。話して分かるタイプなら気にならない。自然に声が大きくなってしまったのだろう。でも、チラッと見たら声量を絞るどころか、さらに音量を上げてきた。明らかに挑発的なので、話なんて通じそうもない。

 そんな最悪のロケーションで、目の前の社長は淡々と安ギャラについての説明をしている。全然聞こえないのは、社長の声量が図書館レベルに絞られているからだ。話の内容は、隣席の男の声でかき消されてしまう。逆手にとって、ギャラを高く請求して「そう聞こえた」とゴネてみようかと思う。

この日の打ち合わせ直前に食べた極上のカキフライ定食。腹一杯だと鈍くなる。