大事なことは先に言え

 以前もここに記したような気がするが、ちょっと前にTVで高校時代の体育教師が紹介されていた。僕の高校はある競技の名門校みたいな学校で、その教師はその部活の顧問だった。公立なのに自費で建てた寮に、遠方から呼び寄せた選手を住まわせていた。熱心にその子らを指導していたようだ。

 僕は授業で何度か話した程度だが、運動神経に見るべきところがないと見做されたらしく、あまり真剣に指導されなかったような記憶がある。体育の授業でも彼の部活の競技を取り入れていたのだが、センスのある人間としか話さないように見受けられた。高校生特有の自意識過剰かもしれないが。

 ただ、若い頃のシックスセンスは侮れないので、その直感はきっと当たっている。それはセンスのない生徒を相手にしないというよりは、名門クラブの顧問としての危機管理能力だとも考えられる。適当な甘い言葉をかけて変な期待をさせないよう、細心の注意を払っていた可能性は否定できない。

 とは言え、その当時はそこまで優しく相手のことを慮る高校生ではない。その教師の雑な対応に「けっ、気取りやがって」とカイ・シデン的にルサンチマンを募らせたと思う。その教師が四半世紀以上の時を経て、TV画面に映し出された。それほど印象深い人間ではないが、知った顔なので驚く。

 今でもその競技の指導を行なっていて、コーチとして遠方まで出向いているらしかった。そのうち現在の姿が出ると思っていたら、最後の方に「亡くなっていた」とのナレーションが入った。TVの演出で人の死を引っ張るなよと思ったが、その演出で視聴率が上がるわけじゃないと怒りを鎮めた。

 でも、視聴率に結びつくものではないとしても、感動させようと作為的に編集されたことは間違いない。その作為がハナについたのだ。そのことがあって、その教師のことを思い返したのだった。彼の塩対応のことを部活の顧問の危機管理能力と捉えられたのも、その番組を見た影響だったりする。

今や廃墟となっている近所の教員住宅。野良猫の温床となっている模様である。