記録にも記憶にも残らない男

 数年前に中学校の同窓会があり、卒業以来はじめて参加してみた。そこで会う人間は全員久しぶりだ。だから最初は誰が誰だか分からない。でも、面影がまったく変わらない人間というのはいるものだ。まず、そういう分かりやすい人間に声をかけたところ、逆に僕が「誰?」と言われてしまった。

 自分のことは分からないものだ。もしかしたら名乗ったところで思い出せないかもしれないとは思ったが、一応名前を言って、そのあと彼が僕を思い出したかは聞かないでいた。慣れてくるとだんだん思い出すらしく、僕も声をかけられるようになった。ただ、仲の良かった面々は誰も来ていない。

 その場には当時の担任が数人来ていた。僕は陸上部だったのだが、当時の陸上部の顧問も来ていた。この顧問のことは苦手なのだが、かと言って挨拶しないのも大人気ない。数人の女子に囲まれて話しているのを横目で確認しつつ、頃合いを見計らって話しかけようと思っていたが、全然空かない。

 この人はバキバキの体育教師で、今でもシュッとしている。体型は当時とほとんど変わっていないが、当然ながら性格も当時のままだ。印象としては硬派っぽいのだが、いつも周りには女子生徒しかおらず、男子生徒からは人気がない。だからと言って、こちらから歩み寄っても心を開かないのだ。

 当時、卒業式が終わり顧問に挨拶しようと職員室の方に向かうと、あの時もアイツは女子生徒に囲まれていた。僕は背が高いので周囲の人間の上から頭ひとつ抜けて見えているはずだ。そこで一瞬目が合ったかなと思ったにも関わらず、目を逸らされてしまった。それ以来30年ぶりの対決である。

 この同窓会の時は、さすがに多少は話せるかなと思っていた。でも、何を話したかは覚えていない。声はかけたつもりだが、その言葉が耳をスルーして行く様が見えるような反応だった。僕が苦手だと思っていたくらいだから、向こうも僕を苦手なのかもしれない。それ以前に覚えていないのかも。

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次の同窓会は2年後だそうだが、その時は50歳になっているという恐怖。