賞味期限ぎれの価値観

 僕はなるべく知り合った人のことは好きになる努力をする。だから、どんどん好きな人が増える。でも、なかなか好きになるポイントを見つけられない人もいる。そもそも、僕に対して悪感情を持っている人とは仲良くもならないので、そういう人は論外として、少なくとも話せる人に限った話だ。

 話していると悪い人じゃないんだろうけど、どうも話が噛み合わなかったりする。本心を話していない人や、自分の立場を飾ろうと偽る人に感じる違和感などだ。見栄っ張りなんだろうなと切り捨ててしまえば良いし、実際にはスルーしているが、ときどき無性に鼻につく時があって困ってしまう。

 ある日の酒場での出来事だ。顔見知りの常連で話しながら飲んでいると、その中の一人(この人が僕と噛み合わない人間だが)が共通の知り合いのことを話していた。その知り合いの彼女が超美人で一流企業に勤めているという話だ。その話を「すごい」と無邪気に話すのが全然理解できなかった。

 彼の価値観の薄っぺらさが全開に示されてしまった。人間の価値は見た目と金だけだと言ったようなものだ。それを信じて生きて行くのは勝手だが、彼自身はそのレースに乗ってないと語る。その割に、こんな旧態依然の価値観を平然と口にする違和感が拭えない。本心を隠しているように見える。

 それは、相対的なものなのだろう。その場にいた別の人間は本当のことしか話さない。だから、その話のズレに納得できずに何度か質問を挟んでいた。そのやりとりを見ていて、僕は完全にその本心丸出しの人の側についていた。僕の心がその人の口から言葉を発しているように感じるほどだった。

 ただ、そんな対立構造を面白く眺めつつ、それでもその噛み合わない彼との接点を探してしまうのだ。僕には分からないが、彼と仲良くしたがる人もいるので、合わせる方法はあるのだろう。ウソは吐きたくないので、自分を誤魔化してまで付き合う気はないが、楽しめるやり方はありそうなのだ。

酒場では機嫌よくいたいものだが、ご機嫌の基準は人それぞれ微妙に異なる。