とびらを広く開けて

 僕は酒場であまり初見の人に声をかけたりしない方だ。迂闊に声をかけて自分語りなどをされたら面倒だなと思ってしまう。逆に冷たい反応をされても傷つく。ひとりで飲みたいから来てるんだろうなと思うことで、僕が声をかけないことを肯定している。本当なら誰にでも声かけたいところだが。

 何度か挑んではいるのだが、姿勢として挑むという構えがあるからあまりナチュラルではない。その不自然さが相手に伝わり、会話が盛り上がらない。もっと自然な流れがあれば、グッと近づくことができる。昨夜は、その酒場に初めてきた若い男性と盛り上がった。そこには自然な流れがあった。

 当初はお互い話さずにそれぞれ飲んでいた。本人が「初めて来ました」と言っていたので、ひとり飲み好きか話し好きかのどちらのタイプか分からずにいた。ただ、店主とは話していたので、その会話の流れを聞いていたら僕との接点があった。プロ野球の推しチームが同じだったので、反応した。

 よく「悪口で気が合う」と言う人がいる。誰かのことに対する評価が同じだから、それは価値観が合うということなのだろう。でも、僕は悪口が好きではない。まったく言わないわけではないが、言った後で落ち込む。何様なんだよと思ってしまう。だから、誰かが悪口を言い始めたら気配を消す。

 その点、好きなものが合う人とは、何の気兼ねもなく打ち解けられる。そのうえ、その彼は大学生なので大きなジェネレーションギャップがある。完全に乖離した存在なので、接点以外の部分では気が合うわけがない。そこは取材者となり、お互いの溝を埋める作業をする。楽しいに決まっている。

 やはり、新しい仲間が増える瞬間は嬉しいものだ。若い仲間はいずれ去ってしまう。年老いた常連は地元なので、いつまでもメンツが変わらない。たまには新陳代謝が必要なので、通り過ぎていく若者を見守り隊となるべく、別れ際に「また来てね」と店員でもないくせに酒場常連に勧誘してみた。

昨夜は深酒の末、外は雨で歩いて帰れず。久しぶりにタクシーで帰ったのだ。