内なる獣が吠えた日

 つい口がすべる、そんな経験は誰にでもあると思う。僕も迂闊な発言で場をシラケさせたことは何度もある。それは、その場に対して快く思ってないから「どうにでもなれ」と思って、捨て身で発する場合もある。でも、僕はそれほど攻撃的ではないので、ほとんどが心の声が漏れてしまったのだ。

 実際に内心で思ったことをペロッと吐き出してしまうことは、まずない。心の声は「声なき声」として、呼吸の仕方が変な感じになるなどして伝わってしまう。いちばん分かりやすいのは、絶対に我慢しなければいけないシーンで笑ってしまうなどのハプニングだ。あれも心の声の漏えいだと思う。

 あとは、会話のやり取りで、途中で「おかしいな」と思うと返事のテンポが悪くなる。明らかに同意していない事柄に対して、それを置き去りにして次にいけないのだ。そんな時は会話についていけなくなり、相手がすでに忘れたようなタイミングで蒸し返す。でも、忘れているので話にならない。

 以前、カウンターで飲んでいる時に、隣に座っていた知らない女性の話が聞こえてきた。あまり好きなシチュエーションではないが、僕を挟んで両隣の顔見知り同士で話していたのだ。僕越しに、僕の横の男性とすこしだけエッチな話をしている。その状態にムカついていた僕は、不機嫌になった。

 そのエッチな話のラリーの何度目かに、つい口を挟んでしまった。それは本当にポロッと出てしまった言葉だ。不機嫌なはずなのに、出た言葉は普通にその話の流れに乗ろうとしたような感じになってしまった。まあ無視されたが、臨戦体制の僕は口から出るタイプなんだということが確認できた。

 ちなみに、その女性と話していた男性は、その直前まで僕と普通に会話していた飲み仲間だ。その女性も、その酒場の古い馴染みらしいのだが、通っている時期が重なっていないので知らない。そういう店の常連の深度を測るような雰囲気は嫌いだが、「NSCの何期?」みたいな質問はよく聞く。

f:id:SUZICOM:20210707155333j:plain

なんでもない日常、ありきたりな風景。心はいつも凪でいたいと思うのだが。