背中越しに笑わせてくれ

 確か関西のベテラン漫才師が言っていたことだったと思うけれど、「街角のチンピラ同士の立ち話が面白かったら最高じゃないか」と言う言葉が忘れられない。それは、プロの芸人でもなかなか到達できないオモシロの最高峰のような気がする。その場で生まれるライブ感覚のオモシロの話だろう。

 中年になると、ほとんどの人が他人の話を聞かない。それは、聞く価値がないとかいう意味ではなくて、単に自分が話したいからだ。他人の話の割れ目を探して、そこにニュッと入って話を横取りする。そんな略奪行為が、世界中の中年が支持する酒場で横行している。それが楽しみだとも言える。

 だから、冒頭のような「立ち話で笑わせる」という領域には程遠い。ハイエナの群れの中では、話は聞くものではなく奪うものだ。眼をギラギラにひん剥いたハンターなのだ。余裕なんてないのだ。そういう世界で、でも、たまに必死で笑わせようともがいている人を見かける。それは不毛である。

 学生時代、部活の帰りに友達とくだらない話をしながら歩いていたら、通りすがりの女性がプッと吹き出しながら自転車で追い抜いて行った。その人に聞かせたわけではなかったが、会話の中にレベルの低い下ネタを唐突に放り込んだら、話し相手の友達ではなく見ず知らずの女性が笑ってくれた。

 それは僕の中での転換点となっており、それ以降、下ネタを思い切って使うようになった。女性に対して下ネタはNGだと思っていたが、それは体験談を根掘り葉掘り聞こうとする行為がNGなのだ。下ネタワードをチョロっと放り込んだところで、特にドン引きされるようなことはないのである。

 なので、僕はたまに「切り捨て御免」とばかりに下ネタを言い逃げする時がある。いわゆる笑いの大原則である「緊張と緩和」のショートカットバージョンなのである。ギャップで笑わせると言うヤツだ。これなら酒場でも比較的通用する。ただ、それを聞いた他の酔漢が便乗するので場は荒れる。

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電車内の会話に聞き耳を立てて、それが面白かったことは一度もない。