最後のスケバン、あらわる

 夜遊びを愉しむ大人は魅力的だと思うが、それを続けるのには体力も経済力も必要になる。その生活を続けて、楽しむためには、先行投資も必要になる。ただ毎日のように飲みに行っても飽きるだろうし、こちらから提示できる何かしらのオモシロ要素がないと、人からのリターンも期待できない。

 そして、大人の体力は無限ではない。歳を重ねるたびに衰えるのは、酒場を楽しむ能力も例外ではないのだ。酒場の常連で、ある日突然、パタッと来なくなる人がいる。そんな人は飽きたのか、または楽しむ体力がすり減ってしまったのか。幸いなことなのか、今のところ僕にはまだ楽しめている。

 酒場で知り合った人の中で、この人は「女番長だなぁ」と感じるお姉さんがいる。年齢のことを言うのは野暮だが、僕よりひと回り以上年上なのは確認済みだ。つまり赤いチャンチャンコの年代ということだ。ただ、見た目では分からない。ある人は魔女と言い、またある人は憧れの女性だと言う。

 僕がその魔女に会ったのは約20年前になるのだろうか。酒場に通いはじめた僕が、最初にお世話になった店の店主夫妻の奥さまだ。今でもその店で働いている。当時からスタイルは変わらず、Tシャツに細いジーンズ姿は僕の憧れのラモーンズのメンバーみたいだ。女ラモーンズ、カッコいいな。

 魔女からは、その街の酒場の情報をいろいろ教えてもらった。だが、似たような店に顔を出しているはずなのに、僕が他の店で飲んでいて魔女に会う確率はとても低い。こんなに長いこと飲み歩いているのに、片手に余る回数しか外では遭遇していない。だから、会えると不思議な感じがするのだ。

 昨日の仕事帰りにその店に寄ったら、久しぶりに魔女に会えた。最近では、働いている魔女に会うのも珍しい気がする。僕がその店にあまり行かないからだけれど、行けば必ず会えるというわけでもない。かつて、その店のバイト店員に僕が魔女に惚れていると誤解されてた時期があった。誤解だ。

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どこかの街でフラッと飲み歩く、そんな日が戻ってきたら遠くに行きたい。