見えない世界は驚愕の連続

 出先のマナーとしてマスクの着用が半ば義務付けられているような世界になってしまったので、僕も外出時はマスクをしている。メガネをしてマスクすると曇るので、最近はメガネを外している。だから、移動中の視界はボンヤリとして曖昧だ。危険を感じることはないが、人の顔は判別できない。

 特に困ることはないのだが、たまに、この世のものとは思えない姿のものが見えてしまう。さっきもピンク色の頭に黒い斑点がついた、キュートなてんとう虫みたいな髪型の人間を見かけてギョッとした。インド料理屋の店員で、その方面の出身者らしいのだが、顔と髪型が全然マッチしないのだ。

 そこでピント合わせ機能を使い(眉間に皺を寄せて、ガンをつける要領で凝視する)、そのインド料理屋の店員を見つめると、ピンク色の帽子を被っていただけだった。色のセンスが多少難アリとは思ったが、それ以外は実に普通のルックスだ。ただ、僕の視力に問題があったというだけのことだ。

 つまり、見間違いが多いのだ。僕は、この世の超常現象や霊体験の多くには見間違いが含まれていると思っている。この不確かな視力を利用して、僕もさまざまな霊障の恩恵に与りたいと思う。見えないものが見えるギフトを授かった僕は、電車の中や街でキョロキョロと「その時」を待っている。

 職場に向かう途中で、ガラスに映る自分にギョッとする時がある。髪が薄くなって、おでこの切れ込みが想像以上に深い。いつの間にこんなに進行していたのか? そもそも兆候すら感じてなかった。そこでハタと気がつく。自分はメガネをしていないのだと。これは不確かな視力による錯覚だと。

 とは言え気になったので、職場に着くとトイレの鏡で確認してみた。ちゃんとメガネを装着した上で、鏡の中の僕はちゃんと薄くなっていた。ガラスに映った姿ほどではないにしろ、あると思っていた量に達していない。先ほどの衝撃よりも強く狼狽えた。これはマジだ。見えない方が幸せだった。

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見えない世界を楽しむのもいいが、見える世界にはこんな変な張り紙もある。