面影すら見えていない

 先日、ジョギングの帰り道で信号待ちしていたら、古い国産のジープが目の前に停まっていた。あまり見ない車種だが、それと同じクルマに乗っている知り合いがひとりいる。小・中学校の同級生で、数年前に同窓会で30年ぶりに再会したときにクルマの話をした。そのクルマが目の前にあった。

 彼は消防士で、その道沿いには我が町の消防署がある。だから、いま考えれば間違いなく彼のジープなのだが、僕はジョギング中に眼鏡を外しているので運転手の顔が一切見えない。でも、さすがに真横を通れば顔くらいわかるだろうと思ってチラ見したが、肌色がぼんやりと滲んで見えるだけだ。

 こりゃダメだ、本人と確認できないと声もかけにくい。滲んだ肌色のシルエットで判断するには確証が薄すぎる。そう思って通り過ぎようと思ったら、なんとなくこちらを見ている気配を感じてジープの方を振り返った。すると、先ほど同様の滲んだ肌色のシルエットがぼんやり見えるだけだった。

 以前、僕は「ずっと生まれた町に住み続けているのに、なぜか子供の頃の友達に会わない」と不思議に思っていた。一度だけ小学生の頃に嫌いだった同級生とレストランで会ったことがあるが、全然うれしくない相手だったので邪険に扱った。そいつに比べれば、ジープの同級生は仲良しと言える。

 僕としては向こうから声をかけて欲しいところだが、それがなかったと言うことは向こうも気付かなかったんじゃないかと思う。向こうはクルマの運転中なんだから視力に問題はないはずで、見えている状態なわけだ。だから、通りすがりの汗だくジョギング男が同級生だと思っていないのである。

 そしてもうひとつの仮説、これが最も可能性濃厚なのだが、そのジープはそもそも赤の他人のモノだったという可能性だ。あれが本当に同級生なら、どんなに滲んだ肌色にしか見えなくとも彼との近似値を見つけ出せると思うのだ。それがないということは、僕の脳内にデータがないということだ。

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ジョギング後はフラフラなので、そもそもジープですらないという可能性も!?