旅情わきたつオータム

 僕は旅行好きではないのだが、秋になると何となく旅行でも行きたいような気分になる。たぶん、実際にこの時期に旅行に出たことは一度しかない。それが楽しかったから、成功体験として「秋は旅行の季節」と印象付けられているのかもしれない。旅行は好きではないが、体が欲することがある。

 いや、体というよりは頭なのだろう。移動により消耗する体力を考えると、体はそれを求めてはいない。頭が、脳みそが、刺激を欲しているのだ。それを誤魔化すために酒場で酔っているのだが、実際の脳のインプット不足から、いい加減「旅行にでも行けや」と内部からの強い意志を感じでいる。

 仮想旅行プラン。サイコロの赴くままクルマで遠出。サイコロを2回振り、1回目は使う高速道路を六つの目に割り振って、2回目は出目かける百キロ進む。その最寄りのインターチェンジで降りて、必ずその土地に泊まる。これによって普段は素通りしてしまう街に行けたら楽しいかもしれない。

 高速道路でも電車でも、流れる景色の中でグッとくる瞬間がある。もっと留まって見ていたい風景や、一瞬のことで「あれ、何なん」と判別不明な何かを発見した時など、ソワソワしてしまう。僕は山間部の山肌に見られるセメント工場と思しき施設に出会うと、ずっと見ていたい衝動に駆られる。

 サイコロ旅行でセメント工場があるようなエリアに行ける気はしないが、そんな「ふとした瞬間」にぶつかる感動を欲している。コチラが見たいと思って見に行く景色よりも、否応なしに出会わされる世界の方が感動は大きいと思われる。だから、別にサイコロを使わなくても偶然なら何でも良い。

 誰かが「目的があるのは旅行で、目的なく彷徨うのが旅」だと言っていた記憶がある。僕は旅行と旅に差があるとは思わないが、その誰かが言う旅のような旅行をしたいので、それが目的と言えるから、僕の場合は旅行なのだろう。先のようなサイコロ旅行にしても、偶然を目的にした旅行なのだ。

最後に出張で新幹線に乗った時の、車窓から見えるブレた世界。異世界ワープ。