ヘリテージ・ビンテージ

 僕は写真が苦手なのだが、仕事で写真を撮る必要に迫られる時がある。あ、デジャヴ。この導入部分はまるでコピペのようだ。きっと以前もこの書き出しで作文をはじめたことがあるのだろう。でも構わない。どこにも出かけられない日々なので、とっくにネタは枯渇している。そんな日記である。

 とにかく、写真を撮るという名目で、電車で適当に出かけることがある。個人的なフリー素材を確保しておきたいので、写真サイトの画角を参考に街をロケハンして回る。そんな行動の中で、自分の中にある資質に気がついた。再発見したと言った方が正しいだろう。ある情景に萌える資質である。

 古い街には、高い確率で朽ちかけた建物が異様な存在感を放って残っている。それは、都会の中であるほど異質で魅力的だ。開発から取り残された一角のように見えるし、そこだけ別の世界線を生きているような孤高な佇まいにも感じられる。建物の材質にこだわりはないが、できれば錆はほしい。

 そんな資質が転じて、古い建物の質感が好きになっていった。都内でも古くからの街には、築年数の古そうな雰囲気のあるビルがある。古いビルには年相応にヤレた箇所や、時代遅れの意匠が施されていたりする。そういう現代とかけ離れた細部が、僕をタイムリープさせてくれるような気がする。

 この朽ちた建物好きということを、上手く他人に伝えられない。以前、オッサン数人で旅行に行った時に、山奥のセメント工場などの造形を観てテンション爆上げしていた。その姿を見た仲間たちが、車窓にその手の光景を見つけるたびに僕に声をかけてくれた。その都度リアクションするのだが。

 そこは大人の僕。せっかく声をかけてくれたからサービスでリアクションしてしまう。本当は「それは違う」と思いつつ、なかなか伝えられない。その中でも、僕が違うと感じたのは廃墟だ。廃墟はエモすぎるのだ。不幸の匂いがするし、普通にちょっと怖い。心霊スポットとは距離を置きたいぜ。

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質感を求めて街ブラしていると、このようにアジで難読な看板を見かける。