卑怯者、秘境を目指す

 むかしから旅番組が好きで、海外の極端な場所にホームステイするようなものをよく観ていた。そこで紹介された場所に行きたくはないが、擬似体験として行った気になれる。自分の脳みそを拡張して、知的好奇心を満たしてくれる。この自粛世界の閉塞感を緩和させるための妄想逃避旅行である。

 海外旅行モノの行き先設定は両極端だ。南国の綺麗なビーチか山間部の秘境という対比は、天国と地獄みたいな落差を感じさせる。そして、僕が惹かれるのは地獄に当たると思われる秘境の方だ。実際に行くのなら綺麗なビーチとサービスの行き届いたホテルで過ごせるリゾートの方を選ぶのだが。

 とは言え、僕の数少ない海外旅行経験によると、やはり実際に行く場所の傾向も秘境に近いものがある。インド、タイ、シンガポールが僕が訪問した外国のすべてだ。シンガポールは友人の結婚式で行ったのでリゾートライフ的な旅行だったが、それ以外はバックパッカー的な貧乏旅行スタイルだ。

 貧乏旅行じゃなくても良いのに、その頃の僕は何故か海外旅行を「冒険」と捉えている部分があった。それは先の旅番組からの影響が強い。秘境を目指すためにはプチ冒険を経ないと辿り着けない。僕の旅もそうあるべきだという先入観から、どうしてもバックパッカーのカタチが必要だったのだ。

 だから僕は、一泊旅行程度の軽装で10週間のインド〜タイ無目的旅行に飛び出してしまった。その時の経験だけが僕の海外体験なのだが、それは時間とともに色あせて忘れてしまう。不勉強で行った時はわからなかった事柄を、帰ってきてから再確認する作業も多かったので身についてはいない。

 そんな浅い旅行体験が、僕が妄想海外旅行で思い浮かべるイメージのすべてだ。非常に偏っているので、アジア以外の国には羽を伸ばせない。欧米を映画で観る風景で補完することはできるが、そこには実感がない。まだ行くべき場所は無限にあると再確認しつつ、自由になっても行かないだろう。

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旅先ではそこにしかない風景を探したいのに、既視感がある風景に反応する。