形而上的パラダイス

 かなり前に旅先で会った人と仲良くなり、何日かその町で行動を共にしていた。少し歳上の男性なので先輩として立てていたが、気さくな人なので気楽に話せた。その人の話は面白かったのだが、ちょっとだけアブなっかしいところがあった。話が深まるとスピリチュアル成分が漏れてしまうのだ。

 その人にとっては大事なことなので、多少スピって来ても平然と話している。僕は、その手の話を聞くのは好きだ。そして、その人が正気を保っていたので大丈夫だろうと判断した。まあ大丈夫じゃないにしても、いわゆる旅の恥はかき捨てだし、その人とその後に再会することもなかったのだが。

 詳細は省くが、その人は大事故にあったことがあり、その時に臨死体験をしているそうだ。僕は未経験なので、その夢うつつの状態(本人談)を理解できない。でも、彼いわく「あの世界を見たことがある人のことは分かる」とのことだった。そして、その経験をしたら人生観が変わるとのことだ。

 僕には人生観などない。せいぜい「礼儀・努力・健康」を心がけているが、これはモットーというヤツだ。あとは「おもしろいことが大好きで、悪いことは許せない」というのもある。『ハロー!シャイダー』という曲の歌詞だ。これらは、彼が言っていた人生観とはまるで異なるような気がする。

 ハッキリ言って彼も伝わると思って話したわけじゃないのだ。ただ、そんな経験をして、それを語っちゃっても良いかなという境地に達したということだ。それは旅の恥のかき捨てかもしれないし、変わった人生観によるのかもしれない。見えないものを見てしまった事実を語るのだという覚悟だ。

 もう何十年も前の出来事なので、彼が語った言葉を覚えてはいない。それだけ僕がスピリチュアル系に傾倒しないタイプということもあるのだが、とは言え、彼のことは覚えている。楽しい人だったし、バイタリティに溢れるタイプだった。陽キャなのにスピっているという突然変異体だったのだ。

どんなに心が弱っていても、僕を繋ぎ止めるのは常にラーメンとビールなのだ。