僕らは麻酔で笑っちゃう

 自宅で仕事をしているので、ヒマな時はダラダラしてしまう。それを防ぐために、なるべく午前中に予定を入れて朝から動きだすようにしている。長らく歯医者通いが続いているが、その予約も朝イチを希望することが多い。受け付けの女性が不審に思っているフシもあるが、特に説明はしてない。

 学生時代から歯医者に通うと長くなる。虫歯が悪化してツラいことになる。たぶん健康な歯は一本もないだろう。若い頃、歯医者に「将来の歯の健康は保証できない」などと言われるほど深刻な状態の虫歯だらけだ。今のレントゲン写真を見ると悲しくなる。治療した痕は白く写るので、真っ白だ。

 今朝も歯医者の予約が入っていた。治療中の箇所に電気を通すと言われて、おもむろに麻酔を打たれた。電気を通す治療はすぐに終わったが、麻酔は今もキマッている。前歯なので鼻の穴が痺れている。花粉症の季節だったら、鼻水が滝のように垂れていただろう。この麻酔の感覚は嫌いじゃない。

 先の学生時代のこと、僕の虫歯を悪し様に罵った女医に麻酔を打たれた時に、注射のポンプと連動して目から涙が溢れてきたことがある。顔のインナー側で口と目が繋がっている証拠だろう。麻酔薬に押されて涙が出たのか、もしくは麻酔がそのまま目から漏れ出たのかのいずれかだと思っていた。

 でも当時は子供で、人前で泣くのは恥ずかしいことだ。確か、同じタイミングで同級生の女子も治療を受けていたような記憶がある。その子に「アイツ、歯医者で注射されて痛がって泣いてた」などと言いふらされたくない。だからと言って、歯医者では自由に話せない。口が塞がっているからだ。

 歯医者では痛みを我慢してしまう。痛かったら教えてくれと言われるが、教えるより我慢した方が早いような気がする。一度、痛みを訴えたら、その日の治療が早く終わった。その代わり治療期間が延びた。やっぱり全体の治療を早く終わらせたい。だから、痛くても我慢して歯医者が嫌いになる。

僕にとってカレーは麻酔。日本にいるという意識を麻痺させてインド化させる。