ノープロブレムチャイルド

 たまに路上で知らない子供に挨拶される時がある。不意打ちなのでゴキゲンに返せなかったりすると、いい歳こいた大人が「挨拶もマトモにできないのかよ」と落ち込む。僕にタイムリープ機能が備わっているのなら瞬時に時間を遡り、2テイク目は余裕で爽やかに挨拶を返したいと思ってしまう。

 しかし時間は不可逆なものなので、決して過去には戻れない。いや、僕がそう思い込んでいるだけで最新の科学ではタイムリープは実現可能な案件になっているかもしれない。無尽蔵な財源さえあればタイムマシンが開発されるのもそう遠くない未来かもしれない。または、すでに開発されている。

 時をかける中年の妄想はこの辺にして、とにかく急に挨拶してくる知らん家の子供に遭遇すると焦る。先ほどもジョギングの途中で僕の三分の一くらい(サイズ)の子供に挨拶された。それも恐る恐るという感じでされた。そのときは「こんにちわ」と返せたが、走っているので顔は険しいままだ。

 その辺が詰めが甘いのだ。小さい子供が(何故か知らないが)決死の覚悟で大人に挨拶をしているのだから、そこは最高に優しい顔面で返さなければいけない。瞬間的に緊張がほどけるような慈愛スマイルを目指そう。この世界は捨てたもんじゃないと伝えたい。たぶん三分の一も伝わってないが。

 僕が子供の時も、通りすがりの大人に挨拶をしたことがあったような気がする。小さい頃は周りの人間は「友達か知らん人」なので、知ってしまえば大人でも友達だ。昔の話なのでそこまで自由な発想で年齢を超えた関係を意識していなかったが、大きな枠で考えれば会話できる人間は友達だった。

 たまに僕に挨拶してくる子供の意識は、果たして如何なるものか。恐らくリスク回避的なことだろう。怪しげな中年に襲われないように、先に声がけして人間性を測っているのかもしれない。僕の方がそう考えるので、変に思われないような当たり前の挨拶を返そうと試みては失敗ばかりしている。

ほぼ子供のいない生活が日常なので、不意に子供と遭遇するとビビってしまう。