滑走して宙を舞う

 冬季のオリンピックは、いつも知らない間に始まっている。僕がウインタースポーツに疎いこともあり、追いかけていないからだ。でも、始まると見てしまう。ワンデイで結果が出る競技が多いので、その場でにわかファンになりやすいのだ。そして、結果が出た後はきれいサッパリ忘れてしまう。

 僕は学生時代、全然スキーをやらなかった。高校1年生の時にスキー教室があったので、そこでヘッポコなりに滑れるようにはなった。それ以来、自発的には行ってない。スキー教室を除けば、生涯で通算5回くらいだろうか。とにかく道具が嵩張るのと、寒い土地にわざわざ行くのが面倒だった。

 何度かの経験で、雪景色の中を無心に滑る快感は理解できる。スキー場の奥まで行って長い距離を滑ると、ある境地に達するような気がする。そういう無心の清々しさは感じたが、学生時代からのスキーに対する偏見が邪魔をする。それはナンパ目的のチャラいイメージだ。僕は無駄に硬派なのだ。

 あの頃の僕に平手打ちをかまして「お前の無駄な偏見なんぞクソの役にも立たん。女の子との出会いなんて多い方が良いじゃないか」とコンコンと説教してやりたい。多分、当時の僕は今の僕より腕力もあり、中年の説教が大嫌いなこともあるので数倍返しされた挙句、さらに意固地になるだろう。

 昨日、酒場で冬季オリンピックモーグルを観ていた。エアで宙を舞う姿が、背景が夜の闇ということもあり、宇宙遊泳のように見えた。単純に美しかった。この手の感動はインスピレーションなので、経験を問わず誰にでも通じる感覚だと思われる。視覚的な判りやすさのおかげで応援しやすい。

 僕がスキーに興味が向かなかったのは、子供の頃の小さなトラウマがある。初めてスキーに行った時に、経験者の叔父さんに奥地に置き去りにされたのだ。大して上手くない父親と這々の体で下りてきた。最後の直滑降では貸しスキー屋のプレハブ小屋に激突して板を折った。今では良い思い出だ。

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冬枯れの空に舞う海鳥。足の遅い人間はいるが、飛ぶのが下手な鳥はいない。