メンタルで灼熱を抑え込め

 中学の陸上部で、2学年上なのに仲のいい先輩がいた。僕と特に親しいというわけではなく誰とでも仲がいいのだが、その先輩を慕って同じ高校を選んだのは事実だ。ああいう面白い人がチョイスする高校なら間違いなかろうという信頼だ。まあ、成績が似たり寄ったりだったということもあるが。

 その先輩が言っていた言葉で印象に残っているのが「心頭滅却すれば火もまた涼し」という根性論の極北のような故事だ。何事も気の持ちようでどうにでもなるというニュアンスに思える言葉だが、実際の意味はちゃんと調べてない。先輩がその言葉を使ったのは、ただ単に教師のモノマネだった。

 それが僕の知らない教師だったので、その言葉自体が先輩の意思のように感じてしまう。おそらく物凄く暑い日の練習中に、くじけそうになっている後輩に向けて冗談半分で言った言葉だ。でも、当人もその言葉を気に入っているかのように連発していたので、知らないうちに覚えてしまったのだ。

 いつの時代も、夏の部活は地獄だった。本当にぶっ倒れるんじゃないかというくらいフラフラな時に、ここで倒れたらこの先部活を続けられないなと思って、あの先輩の言葉を思い出した。まさにワラにもすがるというヤツだ。心の中に氷山を思い描いて、そこで凍える自分を想像して乗り切った。

 僕は「心頭滅却」という言葉を、勝手に「冷却」と意訳していた。火を涼しく感じるくらいだから頭を冷やせということだろうと、都合よく解釈したわけだ。実際には「心を無くす」という無心の境地のことを表している。氷山を思い描いている時点で心が大いに動いているので悟りの境地は遠い。

 でも、夏の部活では先輩の言葉に何度か助けられた。やはり、信用している人間の言葉というのは力になるもんだ。この時期のジョギング中も、灼熱の中はへこたれてしまう。そんな時に心頭滅却が頭をかすめることは多々あるが、今では自販機で飲み物を買ってしまう。熱中症対策というヤツだ。

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ジョギングのルートで重要なのはトイレだ。この公園のトイレは未使用だ。